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『剣遊記11』

第四章 密猟王黒ひげ。

     (4)

 もちろん今の一連の会話は、千秋と千夏の耳にも入っていた(涼子の声は除いて)。

 

「なるほどなぁ〜〜✍ 確かにグリフォンが牛を襲わへんのやったら、千秋も安心なんやけどなぁ〜〜✌」

 

「でもぉ、でもぉですよぉ☁ もしもぉグリフォンさんがぁ飛んできましたらぁ、どうしましゅですうぅぅぅ☁ 千夏ちゃん、ちょっとぉ怖いさんですうぅぅぅ☃☃」

 

 それでもほざいているセリフの割には、あまり怖がっている感じがしない、千秋と千夏の姉妹であった。ところがふたりの右横を歩いている美奈子の態度は、千秋と千夏の会話に、さらに輪をかけた感じでいた。

 

「確かにおまはんらのおっしゃるとおり、そんけったいな恐れはぎょーさんありまんなぁ☢ でも安心しはりや☀ グリフォンごとき、このうちの火炎弾で、簡単に吹き飛ばしてみせますさかいに☆」

 

 今の声が耳に入った孝治は、思わずでつぶやいた。

 

「おっと、今のは問題発言ばい!」

 

孝治はさらに思った。美奈子さんはお宝の鑑定が本来の仕事だとは言え、グリフォン保護のためのキャラバン隊に参加をしちょるはずやのに、これでは全然で本末転倒やなかろっか――と。

 

 幸い美奈子の今の言動は、折尾の耳には届いていなかったようだ。しかし非常識なこの魔術師は、大胆にも当の野獣保護管理官に問い掛けていた。

 

「グリフォンもさることでおますんやけど、この辺りの山には狼や怪物はおらへんのかいな? それやと牛やの馬やのといった選り好みをせんさかいに、そちらのほうがたんと危ないのんとちゃいまっか?」

 

 少々長めの質問であったが、折尾は牛の手綱を右手で牽いたまま、あまりおもしろくなさそうに答えてくれた。ヒョウの顔でおもしろいのおもしろくないだの、どのように表現するかはわからないが。

 

「……確かにそうだが、それは心配せんでええ♠ ここに来る前にきちんと調査を済ませておいたが、この辺りはグリフォンの生息地なだけあって、それ以外の猛獣はほとんどいなかった♣ だから我々も牛も大丈夫だ♦」

 

 無論これで、美奈子が納得をするはずもなかった。この辺は孝治と同じであろう。

 

「なんやようわかりまへんのやけど、なんやぎょーさん御都合主義を感じまんのやわぁ☻ それってほんま、大丈夫ってことでおますんやろっか?」

 

 このとき美奈子の鋭い目線に、見事心臓を貫かれたらしい。折尾は美奈子の詰問に対して、空のある一点(東の方角)に、ヒョウの眼を向けるだけだった。

 

「……そ、そのために、彼女らを事前偵察に行かせてある☞ たぶんもうすぐ戻ってくるだろう……本当ならこんな危険な役目を、彼女たちにさせたくないんだが……☁」

 

「それもそうでんなぁ……✈」

 

 美奈子もつられて、空を見上げた。折尾と同じ、東の方角へ。だが美奈子のほうは心配ではなく、半信半疑どころか零信全疑そのものの目線であった。

 

「沙織はんたち、ほんま大丈夫なんでおますんやろっか? うちの考えやと、期待は全然せえへんほうがええかと思いまんのやけどなぁ☹☹」


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