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『剣遊記11』

第四章 密猟王黒ひげ。

     (3)

 その問題(?)は、今は棚上げ。友美がもっともな疑問を、孝治にささやいた。

 

「でも、どげんしてこげん大変なんに、山登りに向いてない牛ば、ここでも使うっちゃろっか? こげん道が悪かとやったら、もう牛も馬も関係なかっち思うっちゃけどぉ……?」

 

 友美自身は時々浮遊の術を使って、キャラバン隊の周りを旋回飛行していた。これに返答を戻した者は、孝治ではなく帆柱であった。

 

「グリフォン対策ばい☀」

 

「「グリフォンの?」」

 

 孝治と友美の声が、見事に唱和した。さすがに気の合うふたりだった。まあ、それはとにかくとして、帆柱の返答は、次のような内容だった。

 

「そうっちゃ☆ これは前にも訊かれたことの解答でもあるとやが、実に困ったことなんやがグリフォンはなしてか、馬ば好んで襲う傾向があるとたい☠ やけん山歩きに強かとは言え、キャラバン隊が馬ば連れてきよったらいっぺんに野生のグリフォンに嗅ぎつけられ、俺たちまでが襲われる危険があると☢ やけん、それば防ぐためやね♐」

 

「でも先輩、今の説明には根本的な矛盾があるようなんですけどぉ……?」

 

 自分でも珍しかぁ〜〜と、思えるほどだった。孝治は帆柱に、無謀のような反論を試みた。すると帆柱は、むしろうれしそうな顔になって、後輩戦士の意見に耳を傾けた。

 

「ほう♡ 矛盾とな♡ 言ってみぃ☆」

 

「はい、馬ば襲うんやったら、それやったら牛でもおんなじことやなかですか? それに……すっごう失礼ば承知で言うとですけど、先輩はそのぉ……ケンタウロス{半馬人}なんやし……☁」

 

 ついでにここにはロバもおるとです――とは、さすがの孝治も言わなかった。いくらなんでも先輩とロバを同列に扱うのは、あまりにも気が引けるからだ。ところが後輩の、ある意味考えすぎとも言えそうな心配事を、帆柱は簡単に、さらに豪快に笑い飛ばしてくれた。

 

「わはははははははっ☀ なんね、そげなことね☀」

 

「そげなことやなかですよ! すっごう重要な問題やなかですかぁ!」

 

 孝治は思わずムキになった。だがそれくらいは帆柱にとって、まさに鼻息程度の話であったようだ。

 

「まあ、そげん怒るな♪ おまえがそげん心配するんももっともちゃけど、グリフォンはなしてか牛が口に合わんせいか牛ば襲わんし、それから俺も襲わんと✌」

 

「はあ?」

 

 なんだか事の本質を、はぐらかされた気持ち。孝治は自分の瞳が、完ぺきな円球になる思いがした。そんな孝治とは対照的。帆柱自身はなにかおもしろい物を見るような顔になって、後輩戦士とその左横に空中から着地した魔術師――友美に向かって、自分の自信の根拠を述べてくれた。

 

「そりゃ、簡単には信じがたい話っち思うとやけど、グリフォンが自分たちの生息地に棲んじょる野生の獣以外の動物ば襲って食ったっちゅう記録は、実のところいっちょもなかと✍ ところが馬だけは例外で、発見どころか遠くからいななき声が聞こえただけでも、どげな遠くからでも飛んでくるっち言われとうと✈」

 

「それやったら先輩も危なかやなかですかぁ☠」

 

 孝治はやはり、心配の気持ちが収まらなかった。それでも帆柱は、『余裕』の二文字でいた。

 

「まあ、待つっちゃ♪ ところが世の中おもしろいもんで、俺の先祖が昔、グリフォン狩りばやったことがあるらしいっちゃが、見てんとおり体の半分が馬やっちゅうとに、やつらは俺の先祖に見向きもせんかったそうばい♡ しかもその後の公式な記録ば調べたかて、やっぱ俺たちケンタウロスがグリフォンに襲われたっちゅう話はなか♡ やけん安心せい☀ そん証拠に旅の間中、それに今もやが、俺が近くにおるっちゅうのに、牛車のグリフォンはずっと、おとなしいまんまやなかね☆」

 

「う〜ん☁ 確かにそんとおりなんですけどぉ……なんか納得できるようなできんようなぁ……☁」

 

 ロバが無事な理由については、とうとう触れず終いとなった(このあとの孝治に推測では、単に大きさの違いだろうか?)。しかし先輩からこうだと強弁をされたところで、孝治としては、やはり首を右に傾げる他ないのだ。これは友美も同じ思いでいるようだった。

 

「……で、でもぉ、わたしが読んだことのある本によるとですねぇ、グリフォンが昔、ペガサス天馬}ば襲ったって記述がありましたけどぉ……☹」

 

 友美はかなり以前の記憶を、無理に探り出したようだ。これにはケンタウロスの戦士も、『やられたぁ☢』の顔になっていた。

 

「……確かにそうかもしれん★ 過去に無かったことがこれからも無いとは、誰にも言い切れんからなぁ☂ とにかく注意に越したことはなか☀ 孝治も油断するんやなかぞ♐」

 

「はぁ〜〜い♪」

 

「たるんどる! 返事はビシッとせんかい!」

 

「はいっ!」

 

 話が長くなって、半分ダラけていた孝治であった。しかし帆柱の一喝で、一気に背骨が引き締まる思いがした。このカッコ悪い姿を見てか。むずかしい蘊蓄の話には参加をしなかった涼子が、またもやお腹をかかえて空中で笑いだしてくれた。

 

『きゃははははっ♡ 孝治ったら、いっぺんに硬直しちゃってさぁ♡☀』

 

「しゃーーしぃーーったい♨」

 

 これに孝治は、顔を赤らめた思い。小声で情けなく返すだけだった。


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