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『剣遊記11』

第四章 密猟王黒ひげ。

     (2)

「はいはい……っと、ちゃんと前に進んでくださいよねぇ♥」

 

 それなりに動物愛護の精神はあるのだが、一生懸命である孝治の愛情(?)を持ってしても、山道に慣れないコブウシたちの歩みはのろかった。

 

 それこそまさしく、とろとろとした進み方。これも致し方ないであろう。本来コブウシは、平野部の水田や畑で働く家畜であって、これでけわしい山岳地帯の踏破など、とても無謀な試みなのだから。

 

「あんまり無理させんでくれよな☁ こいつらもともと、山歩きが苦手な動物なんだから★」

 

 そう言って孝治を諌める折尾も、牛牽きにはかなりの苦労をしている様子。しかし手荒い真似だけは、一切行なっていなかった。

 

「さあさあ、もう少し先に水場があるから、そこまでもうちょっと頑張ってくれよな☆」

 

 などと、豹顔に似合わない穏やかなる言葉を牛たちに贈りつつ、折尾は彼らの進行を、なんとかしてうながそうとしていた。

 

 折尾にとっては牛も人間も、同じ苦労をともにする、言わば仲間同士と言ったところか。

 

「ウシさんもぉ大変さんですけどぉ、千夏ちゃんたちのぉロバさんもぉ、大変大変さんですうぅぅぅ♠」

 

 そのようにつぶやいている千夏自身も、現在荷物を背負わしている角付きロバを牽引していた。街道では牛車に繋いで、空荷で歩ませていたロバであった。だけど牛の苦労を気休めだけでも少なくさせるため、今は美奈子たちの荷物をかつがせていた。

 

「なるほどのぉ☞ さすがにロバんほうが山道に慣れちょう感じっちゃねぇ✍ 見た目にも牛より気楽そうな顔しちょるばい✍」

 

 周囲を警戒して愛用の長槍を構えている帆柱が、ここではやや呑気気味に、千夏のロバ引き姿を眺めていた。こんな所で変な発言をすれば本人が気を悪くするであろうが、孝治は次のように考えた。

 

(同じ哺乳類でも、牛は偶蹄目(ウシ目)で馬とロバが奇蹄目(ウマ目)やったちゃねぇ……確か✍ やけん案外、ケンタウロスとロバは気が合ったっちゃりしてからね♥)

 

 当然この考えは、絶対に口にはしないつもり。その代わり、孝治は帆柱に、後輩の分際を承知で注意をしてやった。

 

「先輩、そんロバはユニコーンとの合いの子なんですから、男がさわるんは、絶対のタブーなんですからね☠ 小さかようやけど、角がポロッっち落ちちゃいますばい☟」

 

 すぐに帆柱から、返答が戻ってきた。

 

「そん話は千夏と千秋かた聞いとったんやが、孝治、おまえがさわったら、どげんなるとや?」

 

「うわっち!」

 

 定番の逆襲を、孝治は先輩からも言われることとなった。


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