『剣遊記11』 第四章 密猟王黒ひげ。 (11) 「変だっぺぇ? さっきから岩場が全然静かで、動いてるモンがなんも見えないじゃん☁」
浩子が不思議がる気持ちも無理はなし。岩場にはまったく、生き物の気配が感じられないからだ。
「わたしたちが来たもんで、ビックリして隠れちゃったのかしら?」
沙織も絨毯を低空で飛行させ、岩場の周辺を見回した。
「いやいや、グリフォンはそんな臆病な動物じゃ、ほんこんないでんいぇー☝☝」
沙織のややとんちんかんぶりには、さすがに慣れていた。それとは別で、浩子にはまだまだ充分に、グリフォンに対する恐れの気持ちがあった。その理由は彼女たちハーピーが、バードマン{有翼人}と並ぶ空の種族であることに一因していた。
千葉県九十九里浜の海岸出身である浩子は、幼少のころから空とともに生き、同時に空の恐ろしさも身に沁み付けていた。そのため空中の覇者であるドラゴンやグリフォンなども、それこそ手に取る(翼に取ると表現するべきか✍)ようにわかっていた。
反対に沙織は、言うなれば典型的なお嬢さん。従って怪物の知識も本で読んだ程度以上には、実はまったく覚束ないでいた。だからグリフォンへの認識が浩子に比べて、どうしても大甘な部分が表へと出るようだ。
「ちょっとここで降りてみない? もしかしてグリフォンが洞窟ん中で寝てるのかも☟」
「いやいやちょっとぉ! そんな冗談はやめてっしょぉ☁」
浩子が慌てて、頭を横に振った――にも関わらず、沙織は絨毯からピョンと、岩場の上に飛び降りた。実際絨毯が沙織の腰の高さで空中停止している状態なので、これだとちょっとした台から下りるのと、なんら変わりはしなかった。
「もう……あてこてもねーっしょぉ☠」
こちらはあきらめの境地で、浩子も岩場に着地した。
「だっけんが、ぼっこす(千葉弁で『壊す』)ような大きな声はおいもんかいね✄ 本当にグリフォンが寝てたら、すてれっぱつ(千葉弁で『大きい』)なことだっしょ☠」
「わかってるわよ♡」
どこまでも心配顔の浩子に向け、真逆な感じで楽天的な笑みを、沙織が返したとたんだった。
「今だっしぃーーっ!」
急に辺りの岩場周辺に、野太い銅鑼声が炸裂した。次の瞬間バサァッッと、ふたりの女子大生(沙織と浩子)の頭上から、黒一色で彩色されている、網状の物が覆いかぶさった。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |