前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記12』

第三章 陰謀渦巻く公爵家。

     (9)

 そんなところへコンコンと、部屋のドアを誰かがノックする音がした。

 

「は、はい!」

 

 すぐに友美がドアまで駆け寄り、念動魔術でガチャッと開けてやった。

 

「失礼します☆」

 

 訪問者は陣原家の長男である貴明氏であった。

 

「うわっち! いっけね✄」

 

 さすがに依頼人の前で、ケンカを続けるわけにはいかない。すぐに孝治と荒生田は、お互いそろって、振り上げた拳{こぶし}を下ろし合った。しかし貴明は、ふたりには関心を向けず、部屋にあった椅子に、ゆっくりと腰を下ろしただけだった。

 

 来客用の部屋とはいえ自分の屋敷内なので、ここは『勝手知ったる自分の家』――意味は全然違うか。

 

 それからポツリと、貴明が話を始めた。

 

「先ほどは大変失礼ばしました☁ 本当の依頼人である父が見てんとおりなんで、僕が代理で応対せんといけんかったとですが、あん魔術師の同席ば止めることができんかったとです……☂」

 

「ああ、あん魔術師んことですね☛」

 

 孝治の頭にも、すでにこの家のおかかえ魔術師の顔が記憶されていた。この宿泊部屋をあてがわれる前、仕事の依頼人と簡単な挨拶が行なわれたときだった。その席にどう見ても『お呼びでない✋』としか思えない魔術師――東天も、しっかりと同席していたものだから。

 

おまけにあからさまな、人を見下す目線でもって。

 

「改めて訊きたいとですけど、あん人いったい、何モンなんですか? どうも久留米ん人やなさそうやし、それと周りにおった、変な連中もやね☟」

 

 孝治は貴明に質問をしてみた。これに陣原家の現当主は、顔をうつむかせたまま、ボソリと言いにくそうにして答えてくれた。

 

「……名前ばもう教えとうと思うばってん、東天っちゅう名の魔術師……らしか男ですたい☁ もっともこれは全部、彼が自分で言いよう自称なんですけどね☻ それでも彼は一応、中央の魔術省から派遣ばされて、こん久留米市に来たとですが、なんの策ば使ったか父に取り入り、今はこん陣原家に居着いとる存在なんですよ♋ それからなぜか、ガラん悪か連中までいっしょにおうちゃっかするようになったとですが、誰もが疑問に思いながらも家んモンはみんなあとの災難ば怖がって、あんまし口ば出さんようにしとるとです……☃ 最近では父も、東天を煙たがっとうようなんですがね☻」

 

『いわゆる典型的な黒幕気取りっちゅう感じっちゃね☚ 家の主人ば影から操って、自分の思うようにしようって感じっちゃよ✍』

 

 横でこっそり話を聞いていた涼子が、ここでなにかを知っているかのように、小声でつぶやいた。

 

「涼子はなんかわかると?」

 

 これに友美が周囲に気づかれないよう、これまた小さな小声で尋ねた。孝治ももちろん、無言で聞き耳を立てた。

 

 涼子は今度は遠慮なし。ふつうのしゃべり方で、ふたりに話してくれた。

 

 どうせふたり(孝治と友美)以外には聞こえないものだから。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system