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『剣遊記12』

第三章 陰謀渦巻く公爵家。

     (7)

 陣原家の宮殿は、内部が完全に見えないほどの高さで、周囲を塀が囲んでいた。その正面の門がようやく開いて、来客を迎え入れようとしていた。

 

 門の中から出てきた者たちは、車椅子に座っている老人を中心に、いかにも貴族らしい衣装で身を包んだ面々であった。中にはもちろん、黒装束の魔術師らしい人物も混じっているが、これくらいは全国貴族社会の定番であろう。

 

「どうもえらい待たせてしまいましたなぁ、未来亭の方々、わしが陣原ですじゃ♦」

 

 車椅子の老人が、座ったままの姿勢で、深々と頭を下げた。すぐに周りの面々も、同じ仕草で一礼を行なった。ただし、ひとりだけ頭を下げなかった魔術師らしい男は、無言で周囲に目を配っていた。

 

 すると、あれほど(勝手に)いきり立っていたガラの悪い連中が、それこそ子犬のようにおとなしくなり、象の周りから離れていった。

 

「へ、へい……☁」

 

「わかりやした……☁」

 

 荒生田のセリフのとおり、彼らはまさしく『犬っころ』であった。いや、この言い方は全世界の犬たちに失礼であろう。

 

 それはとにかくとして、老人が孝治たちに、優しそうな笑みを向けた。孝治たちはラリーの背中なので、少々見上げた感じになるけど。

 

「まあまあ、こっちが呼んで来てもろうたとは言え、遠い北九州からよういらっしゃいましたのぉ♠ 当陣原家はあなた様方ば歓迎いたしますばい♛ 貴明、お客様ばご案内してあげんね☞」

 

「は……はい!」

 

 初めはやはり、突然現われた象に、その目を奪われていた二代目であった。それが陣原家の前当主――さらに父である陣原氏から言われて、慌ててラリーの背中に乗っている、未来亭一行を邸内へと招き入れてくれた。

 

「ど、どうぞ! こちらばってん! あ、ああ、象に乗ったままでよかですばい!」

 

 ここはさすがに貴族の宮殿なので、巨象でも悠々楽々に入れる門を構えていた。

 

「う〜ん、リッチャー(沖縄弁で『お金持ち』)な人は違うだわけさー♡ じゃあ遠慮のう入らせてもらうりんどぉ♪」

 

 ラリーの頭に跨っている博美は、いわゆる貴族たちの好奇の目に、ある種の快感を得ているようでいた。それからそのまま言われるとおり、陣原家若旦那のうしろから、ゆっくりと象の歩足でついていった。

 

 まさにお言葉に甘え放題。全員が象に乗ったままの格好で。

 

 その威容――あるいは異様とも言える光景を、ほとんど無言で眺めていた魔術師の東天であった。その彼に、うしろからそっと、手下の利不具{りふぐ}がささやいた。

 

「よかとですか? あいつらぞうたんのごつ、おれたちの邪魔になりますばい☠」

 

 東天は利不具の声に、ニヤリとした笑みを口の端に浮かばせた。

 

「そのとおりだ☛ あのじじい、吾輩らに対する当てつけで、わざわざあいつらを遠くから雇ったんだろうよ☠ だが吾輩とて、魔術を極めた男✌ あんな馬の骨みたいな戦士連中など、すぐに叩き出してくれるわい☻」


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