『剣遊記12』 第三章 陰謀渦巻く公爵家。 (5) その公爵家の大きな正門の前である。
「おいっ♨ いつまでびんない待たせる気ばぁよ♨」
象――ラリーの頭に跨る博美が、早くもイラ立ち気分を表に出しまくり。
番兵が報告のため邸内に入ってから、まだそれほどの時間は経っていなかった。しかし彼女は短気丸出しで、同じラリーに跨っている荒生田や孝治たちを相手に毒づき始めていた。
「まあ、待ちんしゃい☹ 貴族ん家{ち}に招待ばされたら、こんくらい待たされるっちゅうのが、ようあることやけんが✍」
そんな風でイライラ気味である博美とは大きく異なって、孝治はなんとか平静を保ち続けていた。しかも――であった。
「おうよ♪ あちらさんはお高くとまっとう家柄やけん、こんくらいはふつうのこっちゃねぇ☀」
ふだんならば博美に劣らない短気で有名な荒生田でさえ、この程度に待たされることは当たり前として受け取っていた。
博美のように、平常ならばどこの組織にも属さず、いつも自由気ままに行動する独立戦士も、この世には決して少なくはなかった。そのためか必然的に、独立戦士には気の荒い者が多かった。しかし彼らや彼女たちとは違って、孝治や荒生田は未来亭という組織に、立派に専属していた。従ってけっこう窮屈な決まりや習慣に縛られる場合も多いので、このようなときの我慢気質が、知らず知らずのうちに養われているのだ。
だけど、博美のすぐうしろに跨っている裕志は、いつ彼女の癇癪が爆発しないかどうか、ビクビク顔で心配していた。
「あのぉ……博美さん……もうちょっと落ち着かれたほうが良かですよぉ……☁」
でもやっぱり、博美が忠告を聞いてくれるはずがなかった。
「えぇ! うっせえ、わじわじするぅ! おれはわーらを呼んでおきながら、わーらを待たせるようなあったーらが大っ嫌いなんばぁよぉ!」
「は、はい! しゅ、しゅみませぇ〜〜ん☂」
博美の激しい一喝を受け、裕志はたちまち首をすくめて萎縮する有様。いつもの青い顔にさらに拍車をかけた、もろ完全真っ青な顔で怯えていた。
『まっ、こげんこつっち思いよったちゃけど、相変わらず裕志くん、可哀想っちゃねぇ☻』
などと恐らく傍観者気分で、涼子がこれらの光景を眺めている最中だった。
「あら? あん人たち……なんやろっか?」
幽霊と並んで博美たちを見ていた友美(やはりラリーの上)が、屋敷の別の出入り口から湧いて出てくる一団に気がついた。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |