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『剣遊記12』

第三章 陰謀渦巻く公爵家。

     (4)

「象で来るなんち思いもよらんかったばってん、来客はたぶん、わしが呼んだ未来亭のモンたちばい☞」

 

「父上っ!」

 

「ほう、これは公爵殿、ご気分はよろしいのですかな?」

 

 貴明が『父上』と呼び、東天が『公爵殿』と言って、恭しく頭を下げた人物。陣原公爵の登場であった。

 

 家督は長男にゆずっているとはいえ、『公爵』の爵位は、そのまま継続しているわけである。

 

 さっそく公爵家の長男が、病気の状態も忘れて、父にその真意を尋ねた。

 

「父上、未来亭のモンば呼んだっちいったい、どげんことですか?」

 

 この疑問は、おかかえ魔術師にとっても同様だった。

 

「吾輩からも、ぜひお訊きしたいことですな☛ そのようなお話など、この吾輩はなにも聞いておりませんでしたので♋」

 

 ところが陣原公爵は、ふたりの問いに、まったく答えようとはしなかった。

 

「わしば窓んとこまでやってくれんね☞」

 

「はい、かしこまりました☆」

 

 公爵は車椅子を押す従者に命じて、自分を窓の近くに寄せさせた。次の行動は、一階の窓とはいえそこから見える外の光景に向かって、小さくささやくだけだった。

 

「未来亭の若造が、相変わらずどげんだっちゃよか大層なことばっか、しおってからに☺」

 

 そんな柔和顔である元当主の後ろ姿に貴明も東天も、それから居並ぶ面々一同、これは公爵殿のなんのお戯れかと、ただただ自分の首をひねらせるばかりであった。


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