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『剣遊記12』

第三章 陰謀渦巻く公爵家。

     (3)

 初めはこの報告に、訳がわからんといった面持ちで、貴明は応じた。

 

「来られただとぉ……なんね、それって?」

 

 これに走ってきた番兵が、やや震え気味な感じで、具体的な内容を告げようとした。

 

「は、はい……そ、それがですねぇ……ぞ、象が来たとですよ……こん久留米にですねぇ♋」

 

 彼の言っている話の意味が、ますますわからなくなってきた。

 

「ぞう? 僕は象なんち呼んだ覚えはなかばい✄」

 

「と、とにかく……そん象に乗っとうモンたちが、求めに応じて北九州から来たっち言いよっとですよ♋ そげんですけ、できれば若様御自身の目でご確認いただければ、このわたしかて安心ばして、職務に励むことができるのでありますばってん☹」

 

「う〜ん、とにかく行ってみよっかね☜」

 

 今ひとつ噛み合っていない会話を、貴明と番兵が続けている横からだった。

 

「その兵は、頭がイカれているのではないですかな?」

 

 話を耳に入れて、逆にイラ立ったようである。東天が横柄丸出しな口を出してきた。

 

「この日本に野生の象など、いるわけがないわ☠ そこの者はこの暑さで、きっと幻覚でも見たのでしょうな☻」

 

「わ、わたしは、こん目で見た有りんまんまのことば、ご報告申し上げているまでで、そげん言われる筋合いなんてなかですたい!」

 

 つい相手が、公爵家おかかえの魔術師であることも忘れたのだろう。報告を行なった番兵が、顔を真っ赤にしてまくし立てた。この下っ端であるはずの彼の立腹ぶりだけを見ても、東天がいかに邸内で嫌われているかが、よくわかるというもの。

 

「やめんしゃい! たとえ腹かくことがあっても、こん方は陣原家の専属魔術師やけんね!」

 

「は、はい!」

 

 この危うい空気を、さすがにまずいと感じたようだ。貴明が大声を出して、番兵を右手で制してやった。ここで現当主が止めなければ、番兵も東天の電撃魔術を喰らう破目になっていただろう。番兵が頭をしゅんとうな垂れさせて、孝明のうしろに引き下がった。

 

 これと同時だった。今度は廊下の隅にある扉が急にギギィ〜〜と開いて、中から車椅子に座っている老人が姿を現わした。


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