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『剣遊記12』

第三章 陰謀渦巻く公爵家。

     (21)

 もっとも音の正体については、もう誰もが承知の上でいた。

 

「んじぃ、ラリー? わーらー(沖縄弁で『水』)かぶって気持ちえーやがぁ?」

 

 博美が相棒である象のラリーに、バケツでもって川の水を、思いっきりぶっかけている最中なのだ。

 

 だもんだからラリーも博美に応え、パオーーッと大きな吠え声を上げていた。

 

 と、これだけならば主人と象との、大変微笑ましいコミュニケーションの情景と言えるだろう。ただひとつの問題点を除けば――であるが。

 

「博美さん……ここがどっか、わかっちょんやろっか?」

 

 友美が指摘をするとおり、ここは筑後川の中流。すぐ近い所を街道が通り、河畔には一般の通行人や旅人も多いはずなのだ。

 

「裕志から彼女がすっげえ大胆っち聞いとったんやけど、ほんなこつ、そんとおりっちゃねぇ♋」

 

 孝治も今や、博美に白旗を揚げて、降参したい気持ちにまでなっていた。

 

「ほらぁ、りんどぉーーっ(沖縄弁で『するぞ』)♡ ラリー、もう一発くりん(沖縄弁で『どんどん』)さー♡」

 

 パオーーッ

 

 それと言うのも、ラリーにバシャバシャッッと水をかけている博美は、鎧も下着も全部脱ぎ捨てた、いわゆる生まれたまんまの格好。その姿で博美は、川の中に立っているのだ。

 

 ちょっと前に裕志から聞いた話では、博美の最初の裸は、ふだんは人が入らないような山の奥にある、名も無い小さな泉での出来事であったと言う。ところが現在は前述をしたとおり、なかば往来の真っ只中――とも言える場所なのだ。

 

「象ば洗える所があったら、どこでも脱いじゃうんけ? 博美さんっち……♋」

 

 何度も繰り返すが、まさに大胆を絵に描いたような女戦士の振る舞い。孝治はもちろん、貴明も目を白黒させていた。

 

 早い話。当然のパターンだが、視線のやり場に困ると言うべきか。

 

「僕も初めてお会いしたとばってん……城野博美さんでしたよねぇ……確か南海で海賊退治で有名なんは聞いとったとですけどぉ……まさか今回陣原家んためにご尽力ば頂けるなんち……正直僕は、ほんなこつ思いも寄らんかったとですよ……ぞうたんのごつ☁☁☁」

 

 セリフは丁寧で、なおかつ慎重そうに言葉を選んでいた。そんなところが博美の突然の裸に、なかば狼狽している貴明の心境を、見事に表現しているようだった。

 

 そんな所へ侍従長である則松が、息を切らせながら河原まで走ってきた。

 

「若ぁーーっ!」


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