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『剣遊記12』

第三章 陰謀渦巻く公爵家。

     (20)

「ふぅ〜ん、あの東天って魔術師、貴明さんもよう素性ば知らんっちゅうわけっちゃね✄」

 

 筑後川を眺められる河原で腰を下ろした孝治は、そこで陣原家長男である貴明から、顧問魔術師の話を聞いていた。

 

 話をしてくれている貴明も、同じようにして河原の草の上に座り込み、なんだか愚痴も少々混じっているような説明を、繰り返し話し続けていた。

 

 聞き手にはもちろん、友美も参加。幽霊の涼子も毎度ながら、興味しんしんで聞き耳を立てていた。三人(貴明、孝治、友美)の背後に体操座りをして。無論存在は内緒。

 

「はい、貴族の顧問魔術師っちゅうのが、中央政府、まあ西のほうからときどき任命されて派遣で来るっちゅうのは、孝治さんも知っとうっち思うとですけど……東天もそげん風にして、我が陣原家に来たとです♋ 別にこっちが頼んだわけやなかとですけどね☠ もちろん中央政府の冠{かんむり}付きやけん、父も僕もどんこんいかんごと、断ることが一切できんかったっちゅうことですよ☢」

 

「そん顧問魔術師が来て以来、陣原家がなんかおかしゅうなってきちゃったっちゅうわけね☞」

 

 友美がささやく『顧問魔術師が来ておかしゅうなった⚠』という時期は、以前に孝治たち三人で、陣原家に秘密の手紙を届けた日と一致していた。

 

「で、そん東天って野郎、もともと問題ありきな人物やなかったと?」

 

 孝治はここで、真相を探るような気持ちになって、貴明に尋ねてみた。すると貴明は、表情をやや曇らせたような感じになり、神妙なしゃべり方で答えてくれた。

 

「……そこんとこは一応、中央政府の人事課っちゅうとこに訊いてみたとですが、『書類審査は完了済みで問題なし』って回答があっただけやったとですよ☠ そん書類審査そのものについたかてばってん、なんの説明もなかったとですけどね☹」

 

 話を聞いた孝治は口の右端を、少しニヤつかせた気分になった。

 

「どうせ、紙に書かれちょうことだけ読んだお役人が、こん家にはこいつば派遣しちょこうっち、安易に簡単に決めたっちゃろうねぇ、それこそなんも考えんでね☻ まあ『不適材不適所』ってのが役所だけやなかっち思うっちゃけど、どこの人事課でも、言わばお家芸みたいなもんやけねぇ☠」

 

『孝治っち、時々うまいこつ言うっちゃねぇ☆』

 

 孝治の左横に移った涼子が、どうでも良いような例え話に感心してくれた。貴明もまた、(元男の)女戦士のセリフに、心なしか苦笑のような表情を浮かべていた。

 

「まったく孝治さんの言うとおりばい☻ おかげで我が家は、ぞうたんのごつ大迷惑っちゅうことばいねぇ♋」

 

 そんな感じで、妙に話が盛り上がっているところだった。川の方向からバシャッと、水をかけ合う大きな音がした。


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