『剣遊記12』 第三章 陰謀渦巻く公爵家。 (11) とりあえず宿は見つかったものの、孝治、友美、涼子の三人には、しばらく仕事らしい仕事がなかった。
「街でも出よっか✈」
けっきょく三人で連れ立って、久留米市の歓楽街で、羽根を伸ばすようにした――と、これは孝治の発案。ここで街の商店街を歩きながらで友美が、何気ない感じの顔で話しかけてきた。
「孝治はどげん思うね?」
「どげん思うって?」
話がピンとこない孝治は、なんとなく眉間にシワを寄せる気持ちで尋ね返した。
すぐに友美が返答した。
「ほらぁ、涼子の家で昔、お家乗っ取りの危ない話があったって言うたやない☠ それとおんなじことが今、あの陣原家でも起きちょるんやなか、っちゅうことっちゃよ☞」
友美はどうやら、昼間涼子から聞いた話が、今も胸の中で関心を寄せているようだった。
「あ……そうけ☻」
とは一応返したものの、孝治自身はひさしぶりに訪れた久留米の街に夢中となっていて、昼間の話題のほとんどを、とっくに記憶からリセットしていたりする。
「ま、まあ……起きちょるんやなか……やけんずっと前、陣原家に手紙ば届けたとき、おれはおれの勘で危なかっち思うたもんやけ、『君子危うきに近寄らず⛔』で、さっさと帰っちゃったんばいねぇ♋」
けっきょく話の肝心な要所には触れられず、適当にお茶をにごすような言い方ばかり。
(我ながら、もっといい言い訳の仕方、なかとやろっかねぇ?)
『でも最終的には騒動から逃れられんで、こげんして騒動の中に入っちゃったんかも……ってとこやろっか☜』
「ま、まあ……そうっちゃね♋☻」
横から出てきた涼子の指摘は、まさにズバリそのもの。孝治にも否定はできなかった。
一度踏んだ虎の尾の因縁は、あとあとまで延々と続く因果なのかもしれない。
そんな孝治たちであるので、いきなり濁声{だみごえ}をかけられるまで、彼らの存在にはまったく気づいていなかった。
「おっ? おめえらはきょう、うちんとこに来た女の戦士やなかねぇ☞」
そうなのだ。昼間陣原家で孝治たちを象ごと取り囲んだ、あのガラの悪い連中が今、こうして瞳の前にいた。
連中は陣原家の屋敷内だけではなく、街の中も闊歩していたのだ。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |