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『剣遊記V』

第六章 これにて一件落着。

     (7)

 そこで孝治や由香たちの見た光景は、まさに驚天動地の極限。紫色の寝間着を上半身だけに着込んだ真岐子が、長い大蛇の下半身で、亀打保をグルグル巻き。さらに天井と床にドタンッ、バッタアアアンッ、グワッシャアーーンッと、何度も何度も叩きつけている有様であった。

 

 部屋の灯りは点いていないので、虹色の鱗は輝いていなかった。それはそうとして、今の状況には関係なし。とにかく真岐子の蛇型下半身は、ビックリするほどに長いのだ。これで巻きつかれてしまえば、大の男でも絶対に太刀打ちなど、できるわけがない。おかげで滅多打ちにされている亀打保は、とっくに気絶の状態でいた。だけども真岐子は、頭がわやくちゃになっているご様子。顔面を両手で覆い隠したまま、攻撃の手――もといしっぽをまるで緩めず、上へ下へと叩きのめし続けていた。

 

「ああん! やだぁーーっ! 殺されるぅーーっ! 殺されるぅーーっ!」

 

「殺しようのはおまえやろうも☠」

 

 孝治はため息混じりで言葉を返してやった。だけど、恐怖心で頭がいっぱいになっているであろう真岐子の耳に、届くはずもなかった。

 

「駄目やねこりゃ☁ もう、おれが手ぇ出せる状況やなかばい☠」

 

 もはや完全にあきらめの境地となって、孝治は現場でサジを投げた。

 

 あとは亀打保の生命力がこの試練(?)を乗り越えて、見事生還を果たすよう期待をかけるしかないだろう。

 

 また、室内が暗い理由も、あったかもしれない。そのため真岐子が、ラミアだとわからなかった、これも亀打保の不運と言えるのかも。

 

 そんなところに今ごろとなって、大門率いる衛兵隊が、ドカドカと寮内に乱入してきた。

 

「非常事態における緊急的超法規的措置であるぅーーっ! 男子禁制は百も承知であるが、ここは理由{わけ}あって入らせていただくぞぉーーっ!」

 

 『あえて空気を読まず⚠』とは、まさにこんな話。衛兵隊のあとからは、秀正と狼――正男もいっしょに続いていた。

 

 もちろんこれにて、寝間着姿の給仕係たちが、さっきよりもさらに大きな声で騒ぎ立てる事態に発展。これは今さら、強調するまでもないだろう。

 

「きゃあーーっ! 今度こそ正真正銘の男が入ってきたっちゃーーっ!」

 

「こんスケベぇ! ド変態ぃーーっ!」

 

 たちまち女の子たちが投げる箒{ほうき}やスリッパ、枕などが、衛兵隊目がけて乱れ飛ぶ。そんな大騒動の中、頭の兜に雑巾{ぞうきん}を乗せた大門が由香たちを押しのけ、孝治の前まで駆けつけてきた。無論、大門が訊きたい質問は、孝治にもわかっていた。

 

「か、亀打保はどこにおる!」

 

 孝治は大門の問いに、自分の正面にある開いたままのドアを、右手で指差した。それからため息を吐きながらで、即答をしてやった。

 

「こん中におるとですけどぉ……もうボロボロになってますけね☻ たぶん、現段階での逮捕は不可能っち思いますけ✄」

 

 部屋の中からは今もなお、ド派手な破壊音と真岐子の悲鳴が轟き続けていた。


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