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『剣遊記V』

第六章 これにて一件落着。

     (6)

 世の男性諸氏にとって、ある意味禁断の聖地――女子寮に飛び込んだ孝治は、すぐに由香たち給仕係の面々と鉢合わせをした。すると当然ながら、ここでも井堀と同じ。つまらない決まりごとを、由香から言われることとなったしだい。

 

「きゃっ! ここは男子禁制ばい! やけん、給仕長の熊手さんかて入れんのやけね!」

 

 孝治はこれまた、同じ言い訳を繰り返した。

 

「おれは今は女子なんやけ! なんの問題もなかろうも!」

 

「あっ、そうけ☆」

 

「あのねぇ……☁」

 

 あまりにも簡単に納得をされるのも、なんだか割り切れない思いがするもの。だけど今は、女子寮に逃げ込んだ怪盗団の親分を見つけるほうが先決。だから孝治のうしろで、彩乃や登志子たちがひそひそと、わざとらしく聞こえる声でささやき合っても、あえて無視。

 

「給仕長かて遠慮しとるっちゅうのにねぇ☠」

 

「ねえ、あしたっから表の看板に、『元男子も禁制⛔』って書き加えたほうがいいんとちゃう?」

 

「そうっちゃねぇ♥ そげんしましょ♥」

 

 これはもう、無理をしてでも聞かない振りを貫くしかないだろう。

 

(しゃあしぃっちゃねぇ……昔の失敗ば、いつまでもネチネチ言うてからにぃ……☠)

 

 そんな本音を押し殺し、腹が立つ自分を必死にコントロール。孝治は非常事態を前面に押し出した。

 

「そ、それよか、い、今悲鳴があったんは、どこの部屋ね!」

 

「ここばい!」

 

 すぐに由香が手持ちの竹ボウキで、入り口からほど近いドアを指し示してくれた。

 

「こっからやけね! この前入社したばっかりの、真岐子ちゃんの部屋なんやけ!」

 

「真岐子ちゃんけ!」

 

 そのとたんであった。孝治の頭に縁の厚いトンボメガネをかけた、真岐子のクリクリッとした笑顔が浮かび上がった。

 

 しかも真岐子は、視力があまり良くないのだ。これでは暗闇の中でいったいなにをされるか。本当にわかったものではない。

 

「ヤバかっ!」

 

 孝治は急いで、真岐子の部屋のドアを開けようとした。

 

 だが遅かった。中から真岐子の、甲高い叫びが轟いたのだ。

 

「きゃあーーっ! 殺されるぅーーっ! 誰か助けてぇーーっ!」

 

 どうやら室内で、ひどい乱暴をされているらしい。おまけにドガンッ、バキッ、ガッシャアアアンッと、派手な破壊音まで響いてきた。

 

「あんにゃろぉーーっ! か弱い女の子ば痛ぶるなんち、どこまでも腐れ外道なやっちゃねぇーーっ!」

 

 ついに孝治は、怒りを大爆発させた。

 

 とにかくこうなれば、ドアノブを回すのも面倒。孝治はドアを右足でバッタアーーンと蹴飛ばし、部屋の中へと突入した。

 

 それから思わず、あんぐりと口を開けた。


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