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『剣遊記V』

第六章 これにて一件落着。

     (14)

 もしも階段踊り場に残っていれば、涼子を鎮めるべきもうひとりの責任者であったかもしれない。そんな騒動になっているとはツユ知らず、孝治は秀正、正男たちといっしょに、黒崎の執務室へと向かっていた。

 

 もう一度繰り返すが、階段での騒ぎを知れば、孝治は恐らく目の玉が飛び出るほどに慌てたであろう。だけど今のところは、一応関知をしていなかった(ストーリーとは関係ないけど、さすがは昼行灯の熊手給仕長。存在感が見事に絶無であったなぁ☺ 冒頭ではそれなりの出番だったのに)。

 

 もっとも涼子が怒って、それを友美が鎮めている間、孝治は仕事で衛兵隊本部に戻る砂津と井堀を、店の入り口で見送っていた。

 

 それだけならば良かった話であるが。

 

「大門隊長がなぁ……孝治んことば勇気と決断力のある女性やっち、見直しよったばい☁☻」

 

「そうそう✌ 犯人が立てこもっちょう女子寮に単身で飛び込んだ勇気に感動したらしいっちゃね☞☺」

 

「うわっち!」

 

 砂津と井堀の言葉が『嫌な予感☠』となって、孝治の胸に圧し掛かった。

 

「ちょい待ち! おれは男なんやけね、本当は! まさか、まだちゃんとほんとんことば言うてないんやなかろうねぇ……☛」

 

 ここで井堀のセリフが、さらなる駄目押しとなった。

 

「言うちょらんばい☻ それにおれたちが言うたところで、あの御仁があっさり納得するっち思うけ?」

 

「……思わん……思わんけどぉ……そこんとこば、きっちり誤解のないよう言うてくれんね⛑ なんか悪い胸騒ぎがするっちゃけぇ☂」

 

 話が行き着く所まで行ってしまえば、もはや孝治の言葉は哀願に近かった。しかし、これに対する砂津の返答が、完ぺきなる決定打。孝治は胸に、さらに重く圧し掛かるモノを感じた。

 

「隊長が言いよったばい☁ 『彼女こそ、大門家の嫁にふさわしい♡』っちね☻ よけいなことば言うとやけど、隊長はあれでもまだ独身やけね……孝治、おまえどげんするや?」

 

「どげんもこげんもなかろうも!」

 

 これこそ孝治の、最も恐れていた事態。

 

「こげんなったら手遅れにならんよう、おれが自分で男やっち教えてやるけね! 最後の一線ば越えんうちにやね!」

 

「『最後の一線』って、なんね?」

 

 などと尋ねる振りをして、懲りもせずに孝治の尻を右手で撫で撫でする井堀。そんな野郎に孝治の八つ当たり気味な鉄拳がお見舞いされる展開など、今さらここに記すまでもないだろう。


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