『剣遊記V』 第六章 これにて一件落着。 (13) 「これでよかっちゃね♡」
涼子の肖像画が孝治の手で、元の定位置である未来亭の階段踊り場に戻された。すると居並ぶ給仕係たちから、一斉に拍手👏が湧き起こった(ちなみに孝治は、脚立に立っています)。
現在店内には給仕係たちだけではなく、給仕長の熊手に秀正と正男(もちろん人に戻っている)。それに衛兵隊の砂津と井堀も顔をそろえていた。
事件が無事に解決。このあと真っ先に未来亭に戻った品が、涼子の絵なのであった。
本来ならば、もうしばらく証拠物件として、衛兵隊本部に預けておかないといけない規則である。だけど、どうしても早く絵を取り戻したい涼子のわがままに尻を押された格好の孝治は、直接黒崎に嘆願。影の実力を駆使させて、未来亭への早期返還を実現させたのだ。
「あんときは店長に頼み込むほうが難儀で、冷や汗😅たらたらもんやったっちゃね☂ 涼子んこつ秘密にしながら、なんの説得力もないっちゅうのに、早く絵ば戻しての言い訳ば、延々とせんといけんやったんやけ……☁」
今振り返ってみても背筋が寒くなる思いを、孝治は友美にそっとささやいた。
「そうっちゃねぇ☹ よう店長があんまり突っ込まんで、孝治の頼みば聞いてくれたもんばいねぇ☺」
友美も孝治と同じ思いのようである。
「じゃあおれ、これからまた店長んとこ、行ってくるけ☞✈」
そんな孝治が階段から立ち去ったあとも、要らぬ苦労を押し付けた張本人――涼子は涙うるうるの瞳で、居並ぶ給仕係の面々を眺めていた。
幽霊でも泣くときがあるのだ。
『うれしかねぇ〜〜♡♡ あたしん絵が戻ったのを、みんなでこげんして祝ってくれるなんてぇ♡♡』
「良かったやない、涼子☀ みんなの本当の気持ちが、これでわかったんやけ☆」
友美も涼子の右に並んで、いっしょに笑顔を浮かべていた。ただし涼子の存在は秘密なので、他の者には気づかれないよう、そっとであった。
「みんな、涼子んこつ知らんとやけど、この絵だけでもちゃんと、未来亭の一員やっち思うとるんやねぇ♡」
『うん♡』
友美の言葉に、涼子は大きくうなずいた。
さらに友美の励ましは続いた。
「わたし、思うっちゃけど、涼子の絵は偶然ここにあるんやのうて、きっと運命に導かれてここ、未来亭に来たっちゃよ✌」
『あたしもそう思うっちゃけ☆』
涼子の涙腺が、ますます全開の状態となった。
『あたし……成仏して生まれ変わったら、絶対未来亭で働くことにするけね✌ もう決めちゃったばい✌ だって、ここにいる人たちみんな、あたしの仲間なんやけぇ✌』
「あら? ずっと前に有名魔術師になるっち言わんかったと?」
『一回目の生まれ変わりでそげんすると✌ そして二回目からが給仕係やけね✌』
「なんねぇ、それって?」
『そんでよかと✌』
友美の多少のツッコミでは動じないほど、今の涼子は浮かれていた。
はっきりと申して、かなりに大袈裟。ところが――であった。
「やっぱりこん絵は、ここにないとねぇ♥ だって、あたしたちが引き立たんとやけ♠♣」
「そうそう★ 毎日こん絵ば見るたんびに、不思議と自分に自信がついちゃうとよねぇ〜〜♪」
「でも泥棒もなんが良うて、こげな絵ば盗んだとやろっか?」
「そうっちゃねぇ? 友美ちゃんそっくりなくせして、友美ちゃんが勇ましいのにこっちは可愛い子ブリッ子丸出しやもんねぇ♬♫」
「今度の泥棒っち、案外少女趣味やったんかもね♧ そうでないと、誰がこげな自信過剰気味な絵ばほしがるとやろっか☠」
「少女趣味やのうて幼女趣味やなかと☀」
「やだぁーーっ! それってぇ☆」
「きゃははははっ☀」
『あんですってぇーーっ!』
もはや誰がどのセリフを言ったかなど、どうでもよし。いきなり花が咲いた給仕係たちの『本当の気持ち』で、涼子の髪が逆立ち天を突いた。
こうなれば自分の声が、孝治と友美以外には聞こえないなど、これも関係なし。
『今のがみんなの本心やったっちゃねぇーーっ! みんな祟{たた}ってやるけねぇーーっ! こげんなったら特大級のポルターガイストば起こしてやるっちゃけぇーーっ!』
「ま、まあ、ここは落ち着いて✄ みんな、ほんとは喜んどるんやけ✍ ただ、ちょっとふざけとうだけやけね……☢」
ここでなんだか苦笑顔になっている友美が止めに入らなければ、それこそ未来亭全体を揺るがす、大地震へと発展したかもしれない。
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