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『剣遊記11』

第六章 小太郎、故郷へ帰る。

     (9)

「……で、こいらどうするだぁ?」

 

 続いて泰子が、折尾に問い掛けた。ようやく着衣を終わらせた風の精霊も、話の行く末が気になるところだろう。しかし折尾は、そんな泰子にも、苦そうな顔(表現については、もうノーコメント)を向けていた。

 

「もちろんこいつらは、衛兵隊に引き渡す⛑ それで自分は任務も義務も果たしたことになる⛔ それで終わりなんだが……☁」

 

 ここでセリフに詰まった折尾に代わって、帆柱が話の内容を続けてくれた。

 

「裏工作で釈放されたこいつらが、また密猟ば繰り返す……っちゅうことやな☠」

 

「そうだ☁」

 

 (ヒョウの)渋い顔――と言うよりも声で、折尾はコクリとうなずいた。

 

 これまた早い話。需要(野生動物の不法所持者)と供給(密猟者)の悪循環が構築されている状況なので、これ以上はさすがの折尾でも、もはや手が出せないという現状らしいのだ。

 

「そうだ! こうしちゃえば☀」

 

「ど、どんただしただぁ? 沙織さぁ✈」

 

 ここでしばし、自分なりに考えを巡らせていたらしい。沙織が急に声を上げ、泰子だけではなく、この場の一同全員を仰天させてくれた。

 

「あじしたぁ? いきなりずんねぇ声出さんでほしいっぺぇ♋ ビックリしちゃうっしょ★」

 

 浩子が文句を垂れても構わなかった。沙織はさっさと、自分の結論を述べ始めた。

 

「いいからいいから♡ とにかくわたしの考え聞いて♡」

 

「考えっち?」

 

 孝治も沙織に関心を抱いた。すると沙織は自信満々な感じで、自分の胸を張る仕草(けっこう大きめ)をしてくれた。

 

「この人たち全員、未来亭まで連れてっちゃうのよ♡ それでわたしの兄さん……つまり店長である健二お兄様の力を借りて、こいつらを告発しちゃうわけ♥ 健二お兄様ならそれくらいの力があるから、中央政界の圧力なんか、ビクともしないわ☀ こうなったら権力には権力を持って立ち向かうべきよ✌ 水戸の御隠居さんみたいにね♡」

 

「考えとしては妥当っち思うっちゃけどぉ……いくらうちの店長が大物やからって、そこまでの力があるとやろっかぁ……? しょせんは地方のローカル顔役やけねぇ☁」

 

 沙織の考えとやらを聞いた孝治は、もろに半信半疑――もとい一信九疑くらいの思いになった。さらに帆柱も、懐疑的な顔をしていた。

 

「う〜む、俺としては、そげなやり方はあまり感心せんのやが……☁」

 

 ところが――であった。これもよく使うフレーズ。

 

 その後、沙織の考えたとおりに折尾が黒崎を通して密猟団を衛兵隊に告発したところ、これが見事日本の東西政界を揺るがす、一大スキャンダルへと発展した。

 

 つまりが大疑獄事件なわけ。国会で証人喚問が行われたほどだった。

 

 現実として他に対処の方法が無かったとは言え、真に恐るべしは、未来亭の店長黒崎氏。おまけに沙織の他力本願力とは言えないだろうか。


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