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『剣遊記11』

第六章 小太郎、故郷へ帰る。

     (8)

 なにはともあれである。グリフォンの自然復帰に成功。おまけに密猟団摘発の付録付きともなれば、これはもう誰からも文句を言われる筋合いのない、大歓喜的終了となるはずであった。

 

 ところがここで、問題発生。

 

「オレたちを衛兵隊に連行してもだちゃっかんぜ☠」

 

「この野郎っ! くやしまぎれにしゃあしいこと言うてからぁ♨」

 

 孝治はとても腹を立てていた。なぜなら捕まっているはずの煎身沙が、ふてぶてしい態度を、まったく改めようとしないからだ。

 

 早い話。囚われの身となりながらも、密猟団が開き直りを始めてくれたわけ。

 

「薄々知ってるとは思うがのお、オレたちのバックにゃ、中央の大貴族やら高級官僚のしぇんしぇえ方が控えてらっしゃるんだしぃ♥ だからたいげえにしとかねえと、そのようけおられる方々が、スキャンダルの発覚を望んでるはずねえっしぃ♐ それどころかおめえらたなやつが、逆に衛兵隊からちゃまる(福井弁で『捕まる』)ことになるっしぃ☠」

 

「これはいったい、どげんことや?」

 

 密猟団を問いただしても埒が明かないので、帆柱が苦渋顔をしている折尾に(やはりヒョウの苦渋顔)、疑問を寄せていた。すると野獣保護管理官はその苦渋の上に、さらに苦虫を三百六十五匹分にじませたような顔となり(もはや想像不可能)、吐き捨てるようにして、友からの問いに答えた。

 

「聞いてのとおりだ♨」

 

「聞いてのとおりやと?」

 

 帆柱の眉間にシワが寄った。それを承知しているかのように、折尾が続けた。

 

「高貴と称される人種ほど、非合法な物を収集したがるつまらん癖があるもんさ☢ だからそんな連中が競って、密猟団から禁じ手の野生動物を買い漁る結果、とんでもない繋がり、つまりネットワークができちまってる……☠」

 

「要するに、中央政界にも顔が利くってわけね♐」

 

 訳知り顔で、沙織も会話に参入した。

 

「だからこの人たちって、衛兵隊に捕まることなんか、全然怖がってないんだわ☠ おエラいさんたちはこの人たちがいなくなったら、趣味の野生動物が手に入らなくなっちゃうんだもん☢ だからそっちのほうが、よっぽど嫌なのよねぇ✄」

 

「法律よか、自分たちの遊びんほうば大事ってわけっちゃね♐ まったくもって、思い上がった連中っちゃねぇ☠」

 

 話を聞いているうちに再び腹が立ち、孝治はムシャクシャ気分で、地面にペッとツバを吐いた。


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