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『剣遊記11』

第六章 小太郎、故郷へ帰る。

     (10)

 そのときは、誰もそこまでは考えていなかったに違いない。

 

 だがとにかく、店長の従妹の提案が取り入れられたわけ。そこで煎身沙たちを連行するために、ここはどうしても美奈子の協力が必要となったわけ。

 

 かなりに非人道的な手段なのだが、密猟団全員を魔術で縮小。箱詰めにして持っていく理由で。ちなみに性格が温厚派である友美は、ある意味残酷極まるこの術を、根本から習得していなかった。

 

 ところがいざ魔術を実行する段になって、肝心の美奈子と千秋と千夏の姿が、キャラバン隊の周囲から見えなくなっていた。

 

「あの三人、こん大事なときに、どこ行ったとや?」

 

 立場上(一番仲が良いと思われている)孝治と友美。ついでに涼子の三人で、付近の山中を捜索した。また浩子と泰子もそれぞれ空の上から、美奈子捜しに協力してくれた。だけども空の上のふたりよりも、自分たちのほうが先に魔術師師弟を見つけ出すだろうと、孝治はなかば予感していた。なぜなら孝治と友美には、ある考えがあったからだ。

 

「あの三人のことやけ、簡単に行動予測ができるっちゅうもんたいねぇ〜〜★」

 

「そうっちゃねぇ……わたしもそげん思うっちゃけ★」

 

『ねえ、どげな予測なんね?』

 

 涼子だけは、まだ気づいていないようだった。これに友美が、親切丁寧に応じてやった。

 

「あんね、グリフォンにはあるひとつの、変な習性があるとよ✍」

 

『変な習性? なんね、それ?』

 

 涼子の瞳が真ん丸になった。

 

 山中での捜索は、孝治の先頭で行なわれていた。その孝治のうしろから、友美と涼子がついてくる並び方。これは一応孝治なりの、ふたりのパートナー(友美と涼子)に対する擁護策であった。もっとも友美はともかく、幽霊である涼子には不要と思われる策でもあったのだが、そこまで厳密には問わないようにする。

 

「それはやね……☻」

 

 孝治の背後で、友美と涼子の問答が続いていた。

 

「グリフォンは獲物ば襲うだけやのうて、人が創った宝物なんかになぜか執着しちゃう、それこそ変な習性があるっちゃね✍ やけんグリフォンの巣ば探せば、そこにはいろんな宝石っとか金銀があるっち言われとうと✌ やけんグリフォンが絶滅危惧種になったんは、その宝ば探す人たちに巣が荒らされたことも、原因のひとつやっち言われとうっちゃよ✄」

 

「そうっちゃ☁ 例えば美奈子さんたちみたいなんがね☠」

 

 孝治も友美の説明に相槌を打った。頭がそれなりに発達していると思われる涼子はこれだけの説明で、孝治と友美の言いたい話の筋が、すぐにピン💡ときたようだ。

 

『わかった☆ 美奈子さんたちがおらんようなったんは、三人で勝手に宝探しに出ちゃったわけっちゃね★』

 

「あの三人……グリフォンの群れがおらんようなったとたん、自分たちも姿ば消してしまいよんやけねぇ✈ きっと群れの行った先ば追ってったに違いなかっちゃよ✄ グリフォンの巣にあるかもしれん、宝ば求めてやね✐」

 

 孝治はなんだか、嫌味満載な気分になってきた。可能であれば、もっと早く気がつくべきであったのだ。行程がほぼ同じだったとはいえ、美奈子がキャラバン隊になかば強引なかたちで参加を申し出た、本当の理由に。

 

「美奈子さんも千秋たちも、初めっからグリフォンの宝が狙いで、おれたちの仕事に加わったっちゃね♐ それである程度の目星が付いたんで、早速実行っちゅうことばい✈」

 

『それでさっきからあたしたち、グリフォンの群れが飛んでった方向に向かってるっちゃね☆ これって適当に進んでるっち思いよったっちゃよ✁✃』

 

「こげな山ん中やったら闇雲に三人ば捜したかて、とてもやなかけどむずかしいっちゃよ☂」

 

 涼子のセリフに、友美が応えたときだった。三人(孝治、友美、涼子)の前方に広がっている竹やぶが、急にガサッガサガサガサッと揺れだした。

 

 孝治は自分の口の前に、右手人差し指を立てた。

 

「うわっち! ふたりとも黙って!」


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