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『剣遊記11』

第六章 小太郎、故郷へ帰る。

     (7)

 この衝撃には、さすがの小太郎も仰天したようだ。

 

 クアアアアアアアアアアアッ!

 

 まさに泡を喰ったかのようにして、大慌てで地上から翼を羽ばたかせて飛び上がった。

 

 それからやはり、同類が理解できるらしい。山頂に陣取る仲間たちの元へと向かい、これを合図としたかのごとくだった。グリフォンの大群も一斉に空へと舞い上がり、恐らくそれぞれの棲みかであろう。思い思いの方向へ飛んでいった。

 

 グリフォンたちの仲間を守る本能は、まさしく本物であった。同類の子供(小太郎)が無事に自分たちの元へ戻る状態を視認して、きっと安堵でもしたのではなかろうか。

 

 もう人の世界のいざこざなど、一切関知をしない――とでも言いたげのように、孝治には見えていた。

 

「みんな……行っちゃったばいねぇ……✈」

 

 その一方で、鼻を高々としている者あり。

 

「どないでっしゃろ? 結果はあんじょう上々と言いはっても、よろしゅうおまんやろ✌✌」

 

 一応のひと魔術を終え、美奈子ひとりがすっかりの自己満足。前述のとおり、鼻を高くしていた。その反対で今の折尾には、美奈子に異議を訴える気が、こちらもすっかり失われているように、やっぱり孝治には感じられた。

 

「ああ……いい☁ 小太郎を故郷に帰すことができて……文句のつけようもない……♐」

 

「口ではああ言いようっちゃけどねぇ……☞」

 

 孝治の思うに、折尾は本心では、それこそ言いたい文句が山ほどあるだろう。

 

 ただ、その気力が無いだけなのだ。

 

 しかし一時的に言葉をなくしている点であれば、それは孝治自身も同じと言えた。

 

「……おれもほんとはまさか……小太郎ば火炎弾で吹っ飛ばすっち思うたっちゃねぇ……☠」

 

 美奈子さんっちほんなこつ、情けもクソもなかっちゃけねぇ――と、つぶやきの続きは、口には出さないようにしておいた。実際孝治の頭にはずっと以前、美奈子が同じ火炎弾で、ヒュードラー{多頭蛇}を木っ端微塵にした光景がよみがえっていた。しかし今回は、あのときの二の舞いだけは、なんとかならずに済んだわけ。

 

 そんな孝治の内心戦慄とは、まったく関係なしの世界。すぐお隣りでは、人質から解放されている千夏が、姉の千秋といっしょ。無邪気にはしゃぎまくっていた。これもいつもの定番か。

 

「美奈子ちゃぁん☀ やっぱりすっごいさんですうぅぅぅ♡ お子ちゃまのグリフォンちゃんいじめちゃあいけないんでぇ、すぐお隣りさんドカンさせてぇ、お空に飛ばしてあげたんですうぅぅぅ♡ いじめちゃうなんてぇ、とってもぉとってもぉかわいそうさんですうぅぅぅ♡♡」

 

「そやさかい、言うたやないか♡ 師匠の慈愛の精神は、それこそ地球より重たいんやってな♡♡」

 

「……オレたちに慈愛はちぇーで、可哀想でもないんかのお☠」

 

「うわっち?」

 

 このとき聞こえたかすれ声に、孝治と友美は、ふとうしろに振り向いた。

 

「うわっち!」

 

「きゃっ!」

 

 見れば口から黒い煙を吐いている煎身沙を始め、密猟団一行様が頭髪をチリチリ。全員黒コゲの有様であえいでいた。


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