『剣遊記11』 第六章 小太郎、故郷へ帰る。 (6) このような重苦しい状況の空気が、どうやらまったく読めないようだった。
あるいは空気を読む気など、初めっからまるで持ち合わせてはいないのかも。今までこれまた黙って成り行きを見ていた美奈子が、ここでまたもやしゃしゃり出た。
「わかりましたどすえ☀ 脅しはるだけでおましたら、このうちにお任せくだはりまへんかえ♐」
もはや定番の展開であるが、なにやら早くも呪文を唱え始めていた。
「あの魔術師は、今度はなにを始めるつもりなんだ?」
これを半信半疑――いやいやどう見ても零信全疑な感じでいる折尾が、帆柱にぼそっと尋ねていた。しかしこればかりは、ケンタウロスの戦士にも、答えようがないだろう。
「俺にもわからんちゃ☁ なにしろ美奈子はいっつもなん考えよんのか? 俺にもさっぱり見当がつかんけねぇ☠」
しかし先輩の右横に立つ孝治には、美奈子がいったいなにをしようとしているのか。だいたいの見当がついて――しまっていた。
「あれっちまた、『火炎弾』の呪文ちゃね! 美奈子さん、とんでもなかことする気なんねぇ!」
「なんだとぉ!」
孝治から女魔術師――美奈子がこれから行なおうとしているらしい魔術の実体を聞いて、折尾が一気に取り乱した。
「いくら脅かしだからって、それはやっぱりやり過ぎだぁーーっ! 術をかけるのやめぇーーっ!」
もちろん豹顔なので、牙を剥き出しで叫ぶのだが、美奈子は平然と、その声を受け流すだけ。聞く耳を持つ素振りなど、初めっからまったくの皆無だった。
「もう遅うおまっせ☠」
次の瞬間、女魔術師が前方にかざした両手の手の平から、人頭大の炎の塊がゴワァァァァァァァァッッと噴出した。しかも、発射された火炎弾は狙い違わず――固唾を飲んで見守っていた密猟団のド真ん中に、ドッガアアアアアアアアンンと炸裂した。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |