『剣遊記11』 第六章 小太郎、故郷へ帰る。 (3) 孝治の疑問はとにかくとして、とりあえず激戦は終了した。あとは子分どもをけしかけた親分の煎身沙と、人質拘束係の数名だけが、現場に取り残されていた。
「お、親分……もうだちゃかんですよぉ☢ ここはいさぎよう降伏したほうげええっしぃ☠」
配下のほうが、自分たちの大将よりも、遥かにまともな頭を持っていた。だがそれでもなお、煎身沙は見苦しい強がりを続けていた。
「だたねえこと言うなぁ!」
しかし子分たちの負け犬根性のほうは、とっくに限界の域まで達していたようだ。
「ど、どうすりゃ、このおとろっしゃとこから、わめら助かるんしぃ? なんでもしますしい、教えてくださいっしぃ☁☂」
などと両手のシワとシワを合わせて、孝治たちに救済を求める始末。要するに彼らは、周りを囲んでいるグリフォンの大群が怖いのだ。この有様は日頃の密猟に、多少は罪の意識があったのだろうか。とにかくこれにて、密猟団の結束は、完全に崩壊と言えそうだ。
「そ、そうだなぁ……☁」
助けを求められて一応カッコをつけている(両腕を組んだ仁王立ちスタイル)のだが、実は折尾にも対策の立てようもない状況は明白だった。実際ヒョウの顔にも内心で困り果てている様子が、明らかに見て取れるほどであるから。ここはいくら野獣の保護管理が仕事であっても、これほどのグリフォンの大群に囲まれた経験は、絶対に初めての体験であろう。しかし、せっかくつかんだ優位な立場を、ここで簡単に手放すわけにもいかなかった。
「ま、まずは……そうだ! 人質から解放してもらおう。それから、そこのグリフォンの子供……小太郎も放すんだ☞」
「そ、それでほんとに助かるんしぃ?」
無理もない話であろうが、ハゲ頭の子分が、半信半疑気味で問い返した。すると折尾が、これに一喝。
「くどい! 死にたくなかったら早よせんかぁ!」
「へ、へい!」
これではもはや、誰がこの場で一番強いのか、まったくわからない状態。
「お、おい! おめえら勝手な真似するなっしぃ!」
本当の親分(煎身沙)が怒鳴ろうが泣きわめこうが、もはや一切関係なし。子分どもが率先して、沙織と浩子をまずは解放。御丁寧にも、体を縛っていたヒモも解いてあげた。
「ああ、やっと助かったぁ〜〜☀ 帆柱さん、ありがとうございまぁ〜〜っす♡」
自由の身となった沙織が、一目散で帆柱の大きな体まで駆け寄った。
「わわっ! 沙織さん! 今はそげな場合じゃありませんちゃよ!」
ケンタウロスの戦士が赤い顔になっても、沙織は一向にお構いなし。あとで孝治や友美につぶやいた本心では、このとき実は、非常に贅沢極まる願望を、沙織は胸に抱いてもいたのだ。
「どうせなら、こんな駆け引きの結果じゃなくて、戦いの末に助け出される名場面にしてほしかったなぁ〜〜♡」
またこの一方で、同じく解放された浩子が孝治たちの真上まで飛んで、この場に見えないシルフ――泰子を捜していた。
「ねえ! 泰子はどこいるっぺぇ?」
「や、泰子さんはねぇ……☁」
しかし泰子本人の思惑がわからない孝治は、かなりに口ごもり気味な返答しかできなかった。
「……お、おれたちが知らん間に風になって、どっか消えちまったと……たぶん☁ 泰子さんなりに、なんか考えがあってっち思うっちゃけどぉ……☂☃」
「すったげ、そんとおりっけよぉ♡ わたすなりに考えたんだがらぁ♡」
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