前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記11』

第六章 小太郎、故郷へ帰る。

     (2)

「あばさけんなぁ(福井弁で『ふざけるな』)、こんの野郎わあーーっ!」

 

 濁声{だみごえ}に近い雄叫びを上げ、錆び付きの小型剣で斬りかかる槍藻であった。

 

「馬鹿ちぃーーん! 腰が泳いどろうがぁ!」

 

 それを帆柱の長槍が、難なくカチンと弾き返してやった。

 

 本物の斬り合いの最中でも相手を説教できる余裕が、帆柱の実力であり、また変な癖でもあった。

 

 無論孝治とて、先輩に遅れを取ってはいなかった。

 

「うわっちぃーーっ!」

 

 襲いかかる密猟団の雑魚どもを、一応の情け。鎧の部分のみを叩いては捨て、また叩いては捨てして、致命傷を与えない程度にバッタバッタと薙ぎ倒してやった。

 

 日頃、剣の鍛練に励んでいる職業戦士とは大違い。ゴロツキ集団は大抵暇な時間を、酒や遊戯に費やしていた。従っていざ実戦ともなれば、この差は天と地(または月とスッポン)以上の開きとなり、実力の結果として現われるのだ。

 

「ひぃ……おっとろしゃ……☠」

 

「だちゃかん、参った!」

 

「降参!」

 

 真っ先に飛びかかった仲間が、それこそあっと言う間にねじ伏せられる有様。後続するつもりだったらしい子分どもの大半が、慌てて武器を捨てる始末。さらに両手も挙げていた。

 

 これにて戦闘の決着が、呆気なくついたわけ。

 

「まっ、こげなもんち思いよったとやが、ほんなこつ大したこつなかったっちゃねぇ☠ これやったら肩慣らしにもならんちゃ♨」

 

 敵とは言え、あまりにも不甲斐ない負けっぷり。帆柱が忌々しげに、地面にペッとツバを飛ばした。孝治はむしろ、そんな先輩を宥める役に回っていた。

 

「まあまあ、先輩、ここは簡単に済んで幸いっちゅうもんですよ♥ なんせおれたちの周りはずっと、グリフォンの群れに囲まれたまんまなんですから☜☝☞☟」

 

 孝治はついでに、周囲の山々も眺め回した。

 

「おっと、そうやったな☆」

 

 帆柱もいっしょになって、孝治と同じ方向に目をやった。このとき孝治の胸に、新たな疑問が湧き上がった。

 

「……なしてグリフォンたちはあげんおるとに、目の前で斬ったはったばやりよって、まるで無反応なんやろっか?」


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system