『剣遊記11』 第六章 小太郎、故郷へ帰る。 (15) とにもかくにも、鼻薬が(簡単に)効いたおかげであろう。美奈子と千秋と千夏の三人には、なんの憂いも無い感じ。今度は孝治たちのあとを追って、山道を下るルートに入っていた。
ついでにひそひそと、次のような会話を交わしながらで。
「ネーちゃん、ほんまに師匠んこと、許したんかいな? 千秋はほんま、もっと仰山怒られるんかと思ったもんやでぇ☠」
「それやったら、大丈夫でおまんのやわ♡ それに本気で怒りはったかて、そんときは魔術を使って(つまり逆脅し☠)話し合いすればええことでおます♥ それに孝治はんでしたら別に本気で怒りはったかて、ぎょーさんかなんということもあらしまへんのや☢☠ それよりなぁ……」
「それより、なんでっか?」
千秋がややきつめの瞳で見つめると、美奈子は自分の黒衣の右側の懐を、ゴソゴソと左手でまさぐった。そこから取り出した物――美奈子の左手には、明らかに純金とは異なる金属製の、小型の腕輪が握られていた。その腕輪の表面には、意味の不明な紋章が刻み込まれていた。
「まさかやと思うたんどすが、グリフォンの巣からこない超貴重な、もしかしはったらオリハルコン製みたいな金属が出るやなんて、このうちかて夢にも考えてなかったんどすえ☆ これは帰ったら早速、本物かどうかの鑑定をやる必要がありまんなぁ☀」
千夏もさっそく、この場でピョンピョン飛び回っていた。
「わくわくわくぅ☀ 千夏ちゃんもぉ、とってもぉとってもぉお楽しみしゃんですうぅぅぅ♡♡♡」
美奈子たちの真の目的は、やはり『幻のお宝を求めて』に尽きるのであった。しかし、本当のところは期待半分だった今回の旅で、まさか伝説のオリハルコン――じゃないかと思われる拾い物をするとは。正直美奈子もビックリの展開。だからこそ、孝治たちに惜しげもなく、古い貨幣を分け与えることもできたわけ。
「ここで念を押しときますえ♠ くれぐれもこのことは、孝治はんたちにも内緒やで♐」
「わかってますで、師匠♡」
「千夏ちゃんもぉ、じぇったいにおしゃべりしませんですうぅぅぅ☀」
無論これらの会話は孝治たちには聞こえないよう、離れた位置にて交わされていた。
古い貨幣三枚で心ウキウキの孝治、友美、涼子の三人は、けっきょく山から下りる間、うしろで舌👅を出している美奈子たち三人には、まったく気がつかないまま。でもこれはこれで、ひとつのけっこう平和な世界なのかも。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |