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『剣遊記11』

第六章 小太郎、故郷へ帰る。

     (13)

「うわっち! ま、まあ、それは置いといてやね☁」

 

「なにさんがぁ、『置いといて』さんなんですかぁ?」

 

「うわっち!」

 

 自分と友美にしか聞こえない涼子のセリフに、迂闊にも連動した失敗だった。今の会話の不自然ぶりを意外にするどい耳を持つ千夏から突かれ、孝治は思わずの咳払いでごまかした。

 

「ご、ごほん!」

 

 それからわざとらしく、一応の本題に戻った。

 

「ど、どうせ、三人の本当の目的がお宝やっち、だいたいの見当は付いとったっちゃけど、これ以上おれたちの手ばわずらわせんでほしかっちゃね♨ ほんなこつただでさせ帆柱先輩は、美奈子さんば信用しとらんのやけ☢」

 

 孝治はここで、説教を垂れながら考えた。これでもしも、三人(美奈子、千秋、千夏)の勝手な宝探しが発覚したら、これはもう一大事。厳格な性格の帆柱が美奈子たちに信頼を寄せるなど、金輪際有り得ない話になるやろうねぇ――と。

 

「……わかりもうした☁ 今回ばかりは、うちらが間違ってはったようでおますなぁ☂」

 

 先輩の名前を出したとたん(ある意味孝治は『虎の威を借るキツネ』)、日頃は高慢な性格の魔術師美奈子が、とてもすなおに頭を下げてくれた。もちろんこの行為は、毎度の常とう手段のような気が、実のところ孝治はしていた。これはたぶん美奈子なりに、帆柱が自分をどのように見ているのか、薄々感じている理由もあるのだろう。そんな美奈子が、そっと孝治の右横に寄ってきた。

 

 それから魔性気取りのようなセリフ。

 

「これはどすなぁ……そのぉ……グリフォンはんの巣で発見した物どすえ☀ どうかこれで、怒りを鎮めておくんなまし♠」

 

 そう言って、孝治にこっそりと手渡してくれた逸品――少々汚れと傷が入ってはいるが、間違いなく純金で鋳造されている、年代物の貨幣の一種であった。この古い貨幣の種類は、帰ってからくわしく調べないと、たぶんここではわからないだろう。

 

 それが一枚。

 

「これ……なんのつもりね?」

 

 やや腹立ちまぎれの思いになって、孝治は美奈子に問い返してやった。すると美奈子が珍しい行動を開始。いつもの表現法とはまったく異なる、妙に可愛い娘{こ}ぶった仕草(胸と腰をフリフリ☻)を始めてくれた。

 

「いやどすなぁ〜〜♡ 孝治はんったらぁ、わかってはるくせにぃ〜〜♡ これはうちの知識で思いはるに、これはけっこう貴重な古銭らしいんどすえ✍」

 

 なんと美奈子が初めて見せる、人前での甘ったるいしゃべり方! 念のため美奈子は、孝治よりも二歳は年上のはず。

 

「…………⛑」

 

 実際、想像もしなかった美奈子の豹変で、孝治思わずの絶句。それでも右手で貨幣を握ったまま。さらに左手の手の平を上に向け、手相を見てほしいっちゃ――ではない。なにかを催促するような素振りで応じ返してやった。

 

「まだ、あるとやろ☞☞」

 

 無論美奈子は即、孝治に返答した。

 

「……わかりもうした☠ まだありますさかいに☃」

 

 すぐにもう一枚、黒衣の懐から取り出した。それも今度は渋々の顔になって、孝治にそっと手渡した。だけども元男の女戦士はまだ、催促の素振りをやめてあげなかった。これには美奈子のほうが、もはや呆れ気味の顔となっていた。

 

「孝治はんも、けっこうなワルでおまんなぁ☠ そやさかい、人の足元ばかり見てはったら、いつかぎょーさん揚げ足取られまっせ☠」


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