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『剣遊記11』

第六章 小太郎、故郷へ帰る。

     (12)

「友美ちゃぁぁぁん♡ 美奈子ちゃんとぉ千秋ちゃんとぉ千夏ちゃんを、お迎えにきてくれましたんですかぁ?」

 

「……ま、まあ、そうっちゃけどぉ……☁」

 

 ここまで見事にあどけない天真爛漫な笑顔で歓迎され、それでもなお内心の立腹をあらわにできるほど精神力の卓越した者など、やはりこの世には存在しないであろう。そのためか声をにごらせている友美に続いて、あとから前に出た孝治も、不承不承ながら千夏にうなずきを返すしかできなかった。

 

「……し、心配しよったっちゃよ、千夏ちゃんに、それからぁ……☹」

 

 孝治は剣を鞘に収め、捜していた少女の元へと駆けつけた。

 

 もちろん捜していた者は、千夏ひとりではない。茶髪の少女のうしろには、長い髪をうしろに束ねたポニーテールの少女(千夏と同じ顔)もいれば、当然黒衣の美女もいた。

 

「なんや、仰々しいなぁ☠ そない大袈裟なことやあらへんのやで☠」

 

 姉の千秋の辛辣なセリフ回しは、ここでも立派に健在であった。

 

「だいたいあんたらが、勝手に山ん中行くとが悪いっちゃよ♨」

 

 売り言葉に買い言葉で、孝治も無意識的だが、言葉が荒くなっていた。さらに美奈子までが、この傾向に輪をかけてくれた。

 

「それは大変ご迷惑をおかけしもうしたなぁ♠ ここでは一応、お詫びを申しておきますえ♣」

 

 無論反省の色など、まったく見えない感じ。どこから聞いても人の神経を逆撫でするようなしゃべり方で、美奈子は頭も下げず、孝治たちを前にして堂々とした態度を貫いてくれた。

 

「とりあえず、うちらの用は済んでますさかい、それではここらで皆はんの所へ戻りましょうえ☀」

 

 美奈子は澄まし顔のまま、孝治たちを逆に先導。山道を下る段取りに入っていた。

 

 黒衣の女魔術師のそのようなセリフで、孝治は想像どおりの思いを強くした。

 

(やっぱしそうけぇ……✍)

 

 それからどこまでも澄まし顔でいる美奈子に、ちょっとカマをかけてみる気になってみた。

 

「で、グリフォンの巣に、どんだけお宝があったと? あっさり引き揚げるとこば見たら、充分満足した結果やっち思うっちゃけど☀」

 

「どきっ!」

 

 今のはなぜか、美奈子の口から洩れた言葉。まさかとは思うが、心臓が激しく鼓動した状態を、わざわざセリフで表現してくれたのだろうか。ついでに孝治は気がついたのだが、美奈子の黒衣の懐からジャラジャラジャラと、金属のこすれる音も響いていた。

 

 さらに美奈子は愛想笑いをその表情に浮かべ、なんだか恐る恐るの面持ちで、孝治へと振り向いた。

 

「な、なんのお話ですかいな? うちと千秋と千夏はただ、えげつない密猟団はんの根城を完全にわやくちゃにするために、山の奥まで入っただけでおまんのやけどぉ……☁☃」

 

「嘘言んしゃい!」

 

 美奈子の苦しい言い訳を、孝治はひと言で一蹴してやった。しかし、ここでケンカになったらまずいと思ったようだ。友美が慌てた感じで、孝治と美奈子の間に仲裁として入ってきた。ただし、あくまでも孝治側に立つ者として――だった。

 

「わたしたち、知っちょるんです✍ グリフォンには宝ば集める習性があって、やけんグリフォンの巣ば探して、そこにある宝ば見つけたとでしょ✈」

 

『そうそう! やるならやるで、あたしたちにも教えてほしいっちゃね♥』

 

 とうとう涼子までが、しつこい性格剥き出し。悪乗りで身を乗り出した。もちろん美奈子たちには見えていない自分を、承知のうえであろうけど。


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