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『剣遊記11』

第六章 小太郎、故郷へ帰る。

     (11)

 ふたりに注意をする孝治自身の声も、けっこう大きかった。それでも孝治はしっかりと、愛用の剣を構える準備を怠らなかった。

 

 ただしこれは、なんだか先の読めそうな話の流れでもあった。だが、その勘が外れる場合も、充分に有り得るのだ。

 

 この付近はグリフォンの根城ではあるが、それ以外の怪物がいないという保証もない。折尾は以前に否定をしていたが、その予測が外れて、オーガー{食人鬼}やヒュードラー、最悪の場合はワイバーン{飛竜}の出現も考えられるわけ。

 

「もし、おれん手に負えん相手やったら、そんときはそいつに『眠り』の術でもかけちゃってや☁ そげんならんよう祈っとうちゃけどね☠」

 

「わかったっちゃ☆」

 

 剣先を竹やぶに向け、孝治は友美相手にささやいた。その友美は小声で、呪文の詠唱を始めていた。この状況で興奮している者は、いつでも事態を傍観できる特権の持ち主――涼子だけであった。

 

『なんかドキドキしちゃうっちゃねぇ〜〜☆ あたしの心臓って、とっくに停まっとうちゃけど……って、あら?』

 

「なんか見つけたとや?」

 

 そんな幽霊娘が、藪{やぶ}の方向を右手で指差す行動に、孝治はすぐに気がついた。確かに藪の中で、キラリと光る物があるのだ。

 

「うわっち?」

 

 孝治は瞳をいっぱいに開いて、それがなんであるかを見定めようとした。

 

「うわっち! あれって☟」

 

 それは確かに、見覚えのある逸品だった。記憶によれば、誰かさんの頭にいつも付いている、ヒマワリ型のアクセサリーであったろうか。しかも、アクセサリーが付いている髪は、これも見覚えのある茶色っぽさがあった。

 

 ここまで話が進めば、(大方の予想どおり)あとはもう、定番中の定番であろう。

 

「なんね、千夏ちゃんやない☞」

 

 孝治のセリフを待つまでもなく、友美があっさりと言ってくれた。

 

「やっぱし、そうけ☛」

 

 一応警戒していたとは言え、これは前述のとおり、孝治の予測の範囲内だった。同時にこれにて、適度な緊張感に囚われていた全身の筋肉が、一気に脱力するような感覚。そんな状態に孝治は急激で見舞われた。

 

「わたし、見てくるけ☆」

 

 友美も魔術をやめにして、藪の奥へと駆け込んだ。

 

「ああっ♡ 友美ちゃんでしゅうぅぅぅ♡」

 

 聞こえてきた声は、やっぱりと申すべきか。非常識なほどに場違いで甲高い、さらに明る過ぎな女の子の声音であった。

 

 実年齢と精神年齢の差が天と地――いやいや銀河系大マゼラン星雲ほどの距離もある声帯の持ち主など、この世にふたりとはいないであろう。たとえもうひとりが、双子の姉だとしても。


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