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『剣遊記T』

第五章 国境突破は反則技で。

     (4)

「うわっち! お、おれはちとぉ……ヤバかですよぉ!」

 

 話の流れから、これもだいたい予測していた事態だった――とはいえ、孝治は大いに困惑した。

 

「お、おれは……そげん汗ばかいちょらんけ、まだよかですよぉ!」

 

 まさに狼狽の極致。孝治は頭を思いっきり左右に振りまくった。

 

 脳内がムチャクチャ痛くなるほどに。

 

 さらに両手を開いて前に出し、『いやよ、いやよ』の具体的ポーズもやらかした。

 

『よう言うっちゃねぇ☻ 山登りで汗ば、びっしょりかいちょるくせに☂』

 

 涼子が孝治の頭上でささやいた。同時に友美は美奈子からの誘いに、なぜか積極的な態度を見せていた。

 

「わっかりましたぁーーっ! わたしと孝治も入りますけ、魔術で孝治の服ば脱がしてくださぁーーい!」

 

「うわっち!」

 

 これは予想もしなかった、友美の爆弾💣的発言だった。

 

「ちょ、ちょい待たんね! まさか本気でそげな馬鹿んこつ考えよっとね!」

 

 たちまち顔面の赤化と完熟化を感じた孝治に、友美はヌケヌケと言ってくれた。

 

「孝治もええ加減、自分の裸ばっかしやのうて、女ん子全体の裸にも慣れんといけんのやけね☞ やけん少々荒療治やけど、これも勉強の一巻なんやけ✍ ええチャンスやし、美奈子さんにしっかり鍛えてもらいや♥」

 

『あたしの裸は、孝治はもう見慣れとうとやろっか?』

 

 涼子からのツッコミ的疑問は、一時棚上げ。それよりも友美が、これほどの過激発言をしてくれようとは、孝治は夢にも考えていなかった。

 

 ところが――であった。美奈子には友美の声はよく聞こえるらしいくせして、孝治のアタフタぶりは、完全に視界の外のようだった。

 

「お安い御用どすえーー♡♡」

 

 とにかく友美だけに返事を戻し、美奈子が泉の浅そうな所で立ち上がると、(前も隠さず☠)軽い調子で右手の指をパチンと鳴らした。

 

「うわっちぃーーっ!」

 

 とたんに孝治は、着ている革鎧やその下の防衣、シャツなどが、まるで見えない力によってグイグイと引っ張られる感覚に襲われた。

 

 いや、実際に脱がされていた。それは鎧やあ衣服がスイスイと、体をすり抜けるような状態だった。まさに孝治は、身ぐるみをごっそりと剥がされているわけ。

 

「うわっち! と、友美ぃ!」

 

 孝治は儚{はかな}い抵抗で叫んだ。空気のように脱げて宙に舞う、鎧や服を追い駆けながらで。

 

 この時点において孝治は、上から下まですっぽんぽんにされた格好。端から見れば、完全なる『裸踊り』の有様となっていた。

 

「ま、魔術にいろいろあるとは知っとったけど、こげな出鱈目{でたらめ}な魔術もあるとねぇーーっ!」

 

「それが……あるっちゃねよ☃」

 

 叫ぶ孝治に応える友美も、実はなんだか、顔を真っ赤に染めていた。

 

「わたしも恥ずかしゅうて、いっぺんも使{つこ}うたことがなかっちゃけどね☁」

 

『へぇ〜〜、魔術ってほんなこつ、奥が深いっちゃねぇ〜〜♠♤』

 

 涼子は涼子で、空中からの野次馬を決め込んでいる様子。孝治の裸踊りよりも、今は魔術の薀蓄に関心をしているようだった(ある意味、孝治にとっては幸いかも✌)。

 

とにかく、そんな面々が見守る(?)前である。今や孝治の鎧や衣服は、手は一応届きそうだが、ジャンプ以外に取り戻す方法の無い、高い木の上の花状態。大事な部分(?)を隠せるモノは、自前である二本の腕だけ。ついに自分自身が真っ裸となった孝治を、友美が羨望の眼差しで見つめていた。

 

「孝治のおっぱいば、もう何回も見たっちゃけどぉ……やっぱ大きゅう成長しとうばいねぇ〜〜♡☠」

 

 孝治は叫んだ。

 

「人ん裸ばジロジロ見るんやなかぁーーっ!」


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