『剣遊記T』 第五章 国境突破は反則技で。 (2) 結果論的に言って、旅の主導権を、千秋が握った格好。一行は街道から外れ、国東半島の奥へと向かった。
千秋が存在を言い張る、美しい泉とやらを求めて。
それが目的地を探しているうちに、正午をあっさりと過ぎる有様。それで仕方なく、携帯食(干し肉や豆など)をつまみ食い。だけど美奈子と千秋のふたりは、水辺を絶対にあきらめようとはしなかった。
「もうすぐでおますんやで☞ 泉が妾{わらわ}たちを待っておりますさかいに☀」
「おらぁ、早よせな、日が暮れちまうやないかい☆」
自分たちがこの有様の根本原因であることに、まるで無自覚丸出しだった。特に千秋の元気溌剌ぶりは特筆もの。トラの手綱を牽く両手の力も、まったくゆるんでいなかった。
「ほんなこつ、これでよかとね? なんか山の怪物でも出そうな所なんやけどぉ……☁」
孝治のややビビり気味であるつぶやきどおり、周辺はまさに、鬱蒼{うっそう}と茂った山の林の中。しかも孝治の声は、半分枯れ気味。つぶやきついでへとうしろへと振り向けば、友美も息を荒くしていた。
「これって、たまんないわねぇ〜〜☂」
友美も甘かった考えを、今になって後悔しているようだ。このような惨状の中、幽霊の涼子だけが無邪気に、空中にプカプカと浮かんでいた。さらにその口も、相変わらずの遠慮なし。
『ちょっと、だらしなかっちゃねぇ☻ こげなときにほんまもんの怪物でも出よったら、絶対戦えんっち思うばい☠』
「しゃ、しゃあしぃったい……☠」
孝治の声は枯れ気味すらも越えて、今や迫力も大きく減退状態となっていた。 (C)2010 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |