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『剣遊記T』

第五章 国境突破は反則技で。

     (18)

「うわっち! うわっち! みんなテーブルん下に隠れえ!」

 

「きゃあ! 怖かぁ!」

 

 ところが慌てている面々は、孝治と友美たちのグループだけ。その他の人々――地元の酔客たちは、地震に完全に慣れている様子で、冷静かつ平静な態度を続けていた。特に孝治たちの隣りのテーブルでは、農家らしい男性ふたり組が、平然として酒を飲み続けているほどだった。

 

「まぁ〜た地震けぇ☢ ったくぅ、うぜらしいのぉ

 

「まあ、霧島の噴火が近いっち話じゃけぇ、これはそん前触れじゃあ☢」

 

 地震はそれっきりで収まった。酒場はなにごともなかったかのごとく、ごくふつうににぎわい続けていた。

 

「さ、さっすが豪快な南九州人やねぇ♋ もともと火山も多いことやし、すっかり地震慣れしちょるばい♠」

 

 自分自身はアタフタの極致。そんなカッコ悪い部分は口笛でごまかし。それよりも地元住民の気質のほうに、孝治は大袈裟な思いで感心した。だけども友美は、かなりに不安げな顔だった。

 

「旅に出る前に、キャラバン隊の人から聞いたっち言うたけど、やっぱ霧島山が噴火するみたいやねぇ……☁」

 

 孝治も友美の危険予想に、深くうなずいた。

 

「そんとおりっちゃね☢ どっちんしたかて噴火するかもしれん霧島ば避けて、鹿児島までの道は遠回りせんといけんみたいっちゃねぇ♐ 応援って人の伝言にもそう言っておいて、ついでに合馬のおっさんにも気ぃつけてやね☂」

 

「霧島を通りますえ!」

 

「うわっち! 美奈子さん!」

 

 今や恒例となった奇襲攻撃で、孝治は今回、椅子に座ったままの体勢で飛び上がった。それというのも、部屋でおとなしくとぐろを巻いている(?)と思っていた美奈子が、孝治たちのテーブルに、いきなり登場したからだ。

 

予告も布石も脈絡も、全部すっ飛ばした現われ方で。

 

(美奈子さんも常識外れっちゃけど、おれも我ながら器用やねぇ☻ 椅子んまんま、天井までジャンプするんやけ⛑⛔)

 

なお、着地も無事に済ませていた。それはとにかく、孝治はジャンプ成功(?)に関係なく、内心冷や汗たらたら😅で、美奈子に新たな戦慄を感じるしかなかった。


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