『剣遊記T』 第五章 国境突破は反則技で。 (16) 日本一厳しいと言われていた砦の通過に、(反則技で)あっけなく成功した孝治たち一行。それから強行軍で距離を稼ぎ、島津領内の宿場町――日向{ひゅうが}市で宿を取った。
宿屋では部屋をふたつ借り、孝治たちと美奈子たちは別々に宿泊。これにて孝治は、ようやくほっと落ち着いた気分を取り戻した。
「美奈子さん、ちゃんと人間のまんまでおるとやろっか? またコブラになって廊下に出たら、ここも大騒ぎになるとやけどぉ……☁」
部屋に備え付けとなっているベッドに腰を下ろした友美は、隣りの部屋にいる依頼人の振る舞いを、かなりに心配中でいた。
「さあ、どげんやろっかねぇ♠」
孝治は手荷物を整理しながら、友美のささやきを軽く聞き流した。しかし本音はもはや、サジ投げの気分。それも百本くらい。だけどこの気持ちは、顔にも口にも出さないようにした。
「コブラになってもベッドん中でとぐろば巻いとったら、こっちは別に文句なかっちゃけ☻ それよか隣りの店の酒場に行って、なんか飲もうや☟ そろそろ英気ば養いたいっちゃけ♥」
荷物の整理を済ませると、孝治は立ち上がって、部屋のドアを開けた。涼子もすぐに、うしろからついてきた。
『あっ、あたしも行くぅ!』
「しょうがなかっちゃねぇ♥ わたしも行こっと……って、涼子はなん飲む気なの?」
けっきょく友美もその気になったようで、あとから孝治を追い駆けてきた。 (C)2010 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |