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『剣遊記T』

第五章 国境突破は反則技で。

     (15)

(ヘビのウインク😉なんち、初めて見たばい……♋)

 

 などの頭で考えていることを口には出さないようにして、孝治は戦々恐々の思いでつぶやいた。

 

「た、確かにぃ……これは魔術の披露なんやけどぉ……☁」

 

 いくら身体検査逃れのためとは言え、美奈子がこのような場で、変身魔術を実行するとは。

 

 魔術の披露であればふつうなら、火炎術か幻影術だろうと、孝治は思っていたのだが。

 

 この一方、コブラの右横では千秋が『ざまあみさらせ☻』の顔で、衛兵の驚きぶりを笑っていた。

 

「見てみい☞ 師匠を本気にさせるさかい、こんな目に遭ってまうんや☠ 師匠と千秋を舐めたらあかんで♐☻」

 

「あひぇ、あひぇ、あひぇ〜〜っ!」

 

 千秋から笑われている衛兵は、ゴツい面{つら}が、まるで看板倒れのごとく、本当に腰が抜けているご様子。そこへさらに、仲間の悲鳴を耳に入れてか、同僚の衛兵たちが赤い煉瓦造りの砦から、わらわらと総勢十人ほどで飛び出してきた。

 

「な、なんじゃ! 今おらんだのは誰じゃあ!」

 

「あまめ(鹿児島弁で『ゴキブリ』)でも踏んだんけぇ!」

 

 孝治はこのときも考えた。

 

(何人出てきたかて、結果は変わらんっち思うっちゃけどねぇ〜〜☠ なんちゅうたかて、相手は猛毒のコブラなんやけ☠☠)

 

 同僚たちは出てくるなり、地面でのたうっている仲間を取り囲んだ。

 

「なんばおらびよっとか!」

 

「わろ、みとんねぇ格好せんとけやぁ!」

 

 しかしヒゲの衛兵は、怯えきった青い顔で、ある一点を左手で指差すだけ。

 

「あた……あれ……じゃあ……♋」

 

指の先は当然に、白いコブラがいた。その結果は、孝治の考えたとおり。

 

「な、なんじゃ? どっひえーーっ!」

 

「猛毒のコブラじゃあーーっ!」

 

 全員が一斉に飛び上がり、または腰を抜かして、地面に尻餅の事態と相成った。

 

「おれもおんなじやったけど……人っちみんな、おんなじことするもんっちゃねぇ〜〜☂ まあ自分もそうなんやけど、毒ヘビっちとにかく、人間から怖がられるもんやねぇ〜〜☠)

 

 衛兵たちの無様ぶりを、孝治は自分自身に置き換えてみた。するととたんになんだか、とても恥ずかしい思いになってきた。ところが千秋ときたら、今や腰抜けぞろいとなった衛兵たちに向け、実に傲慢極まる態度でのぞんでいた。

 

「どや! これが師匠の大魔術やねん✌ わかったら早よ、ここを通しや✈」

 

しかもさらに驚くべき事態。砦の衛兵がこれまたすなおに、千秋とコブラ(美奈子)に、道を開いてくれた。

 

「は……はい、はい、どうぞ!」

 

 つまりが『通って良し✋✈』。孝治は瞳の前で繰り広げられている珍妙な光景を、ただ唖然とした気持ちで眺めるだけだった。

 

「ほ、ほんなこつ、これでいいんけ?」

 

また、友美と涼子も、同じ気持ちでいるらかったい。ふたりともポカンと、口を丸く開いているので。

 

「こ、こげな簡単なことでええと?」

 

『え、ええんやなか?』

 

 そんな孝治たちの前に千秋と、白いコブラに変身したままの美奈子が、堂々と凱旋のようにして寄ってきた。早速千秋が、こちらがまだなにも尋ねていないうちから、自慢話をベラベラと始めてくれた。

 

「どや✌ これが師匠流の挨拶やねん✌ これやったらどこの砦でも、親切に通してくれるんやで♡」

 

「親切やなかっちゃけ……それって……☠」

 

 額に流れる汗をハンカチで拭きながら、孝治はボソッとつぶやき返した。このセリフに続きがあるとしたら、『それって恫喝ばい☠』となるところであろう。もちろんこれは、あえて黙っておいた。

 

 とにかくこれにて、砦の突破に成功(?)。それなのに美奈子は依然として、白いコブラのまんま。街道には一般の通行人たちが、多数往来しているというのに。

 

「ちょっと美奈子さぁーーん! どこで人間に戻るとですかぁーーっ!」

 

 さらに勝手に、(コブラのままで)いつもどおりの先行を始めた美奈子を、友美が黒衣を胸に抱いて、一生懸命に追い駆けた。

 

 この光景も孝治は、ただポカンと眺めるしかできなかった。

 

「……ほ、ほんとにコブラんまんまで行きようばい……♋」


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