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『剣遊記U』

第五章 鉱泉よいとこ。

     (7)

「この地図、ここのとこ違うあるね✍ 昨年山崩れて、谷川の道通れないわな⛔ ワタシ新し道知てるのて、そこに案内するよろし☀」

 

 全員で朝食を取り囲む中だった。到津が石見への道のりの説明を始めてくれた。これに秀正が、かなり疑い深いような目をして喰いついた。

 

「ほんとけぇ? あんたいったい、どこまで知っとうとや?」

 

「そ、それは、あるねぇ……☁」

 

 到津は少々、口詰まり気味となった。こうなれば秀正有利といった感じの展開だが、だからと言って、この盗賊自身も有力な反論材料は、持ち合わせていないのだ。

 

孝治もすでに聞いているのだが、秀正はただ単に、農家で古地図をもらっただけなので。

 

しかし荒生田は、どうやら到津に賛同的な感じになっていた。こちらはどうも、満腹になって気が大きくなっているようだ。

 

「まあまあ、地元んやつがそげん言うとやけ、よそモンのオレたちは、それに従うしかなかろうも♡」

 

(あかん……きのう自分が言うたセリフ、もう完ぺきに忘れとうばい☠)

 

 孝治は内心で、再び嘆いた。見れば荒生田は、今や腰の剣に手を触れてもいなかった。

 

「先輩がそげん言われるとでしたら、ぼくも賛成です♡」

 

 ここで幼少のころから荒生田に従順だったと言われる裕志が、真っ先に右手を上げた。

 

誰も挙手など求めてもいないのだが。だけどこうなると、秀正も『長いモンには巻かれんしゃい☻』の思考に陥{おちい}ったらしい。

 

「じゃあ、おれもそれでよか♠」

 

 けっきょく到津の意見に合わせるみたいだ。それから孝治に、やや責任転嫁気味な感じで、顔を向けて尋ねてきた。

 

「孝治はどげんするや☛」

 

 もっとも孝治とて、心境はだいたいみんなと同じ。秀正から今さら言われるまでもなかった。

 

「まあ、よかっちゃよ☁」

 

 これにて一応、全員の意見が一致をしたわけ。内情はかなりに強引気味であるけど。それでも到津が、自己満足みたいな笑みを浮かべていた。

 

「わかったわ♡ ワタシ間違いなくあなたたち、石見へ連れて行くあるから、大船に乗ったつもりで安心して任せるある♡」

 

 彼のすぐうしろで孝治は、声に出さないよう、こっそりと付け加えた。

 

(勘違いするんじゃなかっちゃけね☠ おれたちゃおまえをいっちょも信用しちょらんことに、初めっから変わりないんやけ☠⚠)

 

 これに気づいたわけでもないだろうが、到津が笑顔から一転。慎重を絵に描いたような、暗い顔付きとなった。

 

「うわっち!」

 

 孝治はついドキッとなった。それから到津が言った話の内容は、全員を気懸かりにさせるような忠告だった。

 

「ただし皆さん、気をつけてほしいだわね☁ この山で最近、山賊同士の大きな内輪喧嘩あったのこと☢ それて人たくさんたくさん死んだけど、無念のためか死んだ人みんな、おぞいグール{食屍鬼}になって蘇{よみがえ}ったある☠ そいつら今も山の中さまよってるあるから、くれぐれも用心するあるよ☠⚠」


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