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『剣遊記U』

第五章 鉱泉よいとこ。

     (5)

「もう! 確かに孝治の寝どこに潜り込む荒生田先輩も非常識なんやけど、それに朝まで気づかん孝治かて迂闊{うかつ}なんやけね♨」

 

「面目なか……☁☂」

 

 洞窟の入り口で毛布を片付けている友美から有り難いお説教をいただき、孝治はなんだか、凄くおもしろくない気分。おまけに涼子までが、悪乗りでからかってくれた。

 

『孝治と荒生田先輩がおんなじ夢ば見よったなんち、これって傑作やねぇ♡ きっと体ば密着させて寝とったけ、そげな変なことが起きたんかもしれんっちゃねぇ♥』

 

 このとき孝治は腹が立つよりも、むしろ底深い肌寒さを全身に感じていた。

 

「今朝の悪夢は、先輩からの悪影響やったっちゃねぇ……きっと先輩の潜在願望が、おれの体まで伝わったんばい……☠」

 

 そんな洞窟入り口にいる孝治の所へ、またもやのこのこと、懲りもせずに荒生田が寄ってきた。それからワンパターンで、よけいなひと言。

 

「きのうはよう寝れたっちゃねぇ☀ お互いにいい夢見たけんなぁ♡」

 

 はっきり言って、無神経の極み。孝治の問答無用な右拳{みぎこぶし}がガスッと、荒生田の顔面ド真ん中に炸裂した。

 

「むぎゅぅ〜〜☃」

 

 荒生田悶絶。これが夢の中でのセクハラへの報酬である。

 

『すっごう仲んよか、おふたりさんやねぇ♡♡』

 

 涼子のからかい言葉が孝治の胸に、なんだかとてもよく沁み込んだ。

 

「それ以上言わんといてや☢ 史上最悪の腐れ縁なんやけ☠」


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