『剣遊記U』 第五章 鉱泉よいとこ。 (3) 「ははぁ〜〜♪」
とにかくウグイス嬢の声が響き渡るなり、裸の女性たちが一斉に、その場で地面にひざまずいてひれ伏した。
友美と涼子も同様。立ち尽くしている者は、孝治だけとなっていた。
「ほんなこつ、なんが始まるとや……ったくぅ……☠」
ここまで事態が進行すれば、もはや抵抗する気力もなし。孝治は成り行きに身を任せるより他になかった。
そのつもりで腹をくくり、黙って様子を眺めていた。すると瞳の前にある城の大正門が、またもや勝手に自動で開門。中から白い煙のようなガスがプシューッと噴き出した。
「な、なんねぇ? ドライアイスけ?」
孝治の至極当然な疑問など、事態の進行はまったくお構いなしだった。さらに白い煙が晴れると、門にはひとりの人物が立っていた。
黒いサングラスはいつもの定番。だけど顔中べったりと、バカ殿風にメークしたギトギトの白塗り。体全体に金箔を貼り付けた、ド派手でキンキラでケバい――今どき田舎の成金親父でも着ないような殿様衣装で飾った男が、孝治を見つめてニヤけていた。
もはや多くを語るまい。孝治も知り過ぎている、その男、凶暴につき。
「うわっちぃーーっ! 荒生田先ぱぁーーい!」
「孝治ぃーーっ♡ オレの桃源郷によう来たっちゃねぇーーっ♡ 愛しちょるばぁーーい♡」
キンキラの荒生田が奇声を上げ、とんでもない跳躍を正門から決行! 裸の孝治に襲いかかった。
白塗りの顔面から、大きくくちびる💋を突き出して――つまりが接吻。
「く、来るんやなかぁーーっ! こんド変態妖かぁーーいっ!」
これはまさしく、史上最大級の悪夢であった。無論孝治は大慌てになって、この場から一目散に逃走しようとした。ところが二本の足が、突如硬直化。なぜかピクリとも動いてくれなかった。
そんな状態で逃げられないでいる孝治の裸の身に、荒生田がピッタリと、まるで吸盤のようにしがみ付く。
「うわわわっちぃーーっ!」
孝治は完全に抵抗不能。自分の体までが変態の味方をするかのように、まったく思いどおりにならなかった。
荒生田はこのような孝治の体を揺さぶりながら、まるであざ笑うかのごとく、次のセリフを言ってくれた。
「もう朝だわね☀ ご飯の用意できてるから、早く起きるよろし☕」 (C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |