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『剣遊記 超現代編U』

第一章  工業高校、激震走る!

     (4)

 おれも早速――と言うわけでもないのだが、クラスメートたちに囲まれながら、自分の席にぎこちない感じで座っている孝治に、ごくふつうの気持ちで声をかけてみた。

 

 今の孝治はどこからどう見ても、完全無欠のJK(女子高生)にしか見えなかった。

 

「……孝治……これからも『こうじ』でいいか?」

 

「うん、いいよ

 

(どきっ!)

 

 おれに向かって微笑みを見せてくれる孝治の顔は、まさに百万ドルのアイドルスマイル。よく見ればうっすらと、一人前に化粧(口紅っとかアイシャドウ)までしているし。

 

ここで余談だけど、我が港南工業高校の変な伝統として、同級生同士で妙なあだ名を付けたりせず、みんな苗字抜きで下の名前を呼び合う習慣となっている。

 

 おれにも由来がわからない、昔からの、それこそ変な伝統なのだが。

 

 おっと、また横道にそれてしまった。

 

 とにかく、同じ表現ばかりを繰り返して恐縮なのだが、まさしく掃き溜めに咲いた、可憐なる薔薇の花。しかも、おれは見た。まさにたわわに実っている孝治の豊乳が、机の上にズデンと置かれている、迫力満点の光景を。

 

 これぞまさしく、Dカップの暴威。もしかしてこれから毎日、この見事なる豊乳を横目にしながら、おれたちは勉学に励まなければならないのだろうか。おれはなんとかしてこの豊乳から目をそらしつつ、まずは当たり障りのなさそうな質問を試してみた。我ながら『愚か者☠』なのは、百も承知のうえで。

 

「おまえ……前は自分のことを『おれ』って言ってたよなぁ☛ でもさっきから聞いてたら『ぼく』になってるけど、それもやっぱり変化のひとつなのか?」

 

「あ、これ☝」

 

 孝治は簡単に答えてくれた。もう今となっては秘密を隠す気など、さらさらも無いようだ。

 

「なにしろ女になっちゃったもんだから、どう考えても『おれ』って言うのが自分でも似合わないような気がしたもんで、だけど『わたし』ってのも、どうも口慣れしないし、それで小さいころに言ってた『ぼく』って自称に戻してみたんだけど、これでいいかなぁ?」

 

「いや……いいと思うよ

 

 おれに事態解決策の優劣を決める資格など、あろうはずがない。それよりもいわゆる、『ぼくっ娘{こ}』の登場である。これでは我々男子にとって、レディーファースト本能である『守ってあげたい感✌』を、ますます刺激してくれる存在になってしまうではないか。そのような思いにかられながらもおれは、引き続きで尋ねてみた。

 

「おまえ……もう一生女のままでいるかもしれんのに、元に戻る方法っとか、考えねえのか?」

 

「う〜ん☁」

 

 このおれの問いには、さすがに孝治も両腕を組んで、頭を右にひねりだした。胸がDカップになっているので、両腕を組む姿勢がいかにもやりづらそうに、おれには見えていた。

 

 それから五秒ほど考えた――らしい。孝治は再びニコッと微笑んで、おれに答えてくれた。

 

「……だって仕方ないよ こうなった原因がそもそも不明なんだし、元に戻る方法なんて見当もつかないから☻ ぼくはもう一生、女として生きてくことにするよ✈

 

「おまえって……ほんま前向きな人生観持っとるんやなぁ♋」

 

 話を横で聞いていた光一郎が、感心深げにささやいていた。今のおれに言える言葉はなかったが、その感心には同感の思いがした。


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