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『剣遊記 超現代編U』

第一章  工業高校、激震走る!

     (3)

 孝治は早速で、港南工業高校最大の注目の的となった。

 

 休み時間になれば他の組の生徒{ヤロー}どもが、廊下から窓に黒山の人だかりとなって、2年B組の教室を覗き込んでいた。また無論のこと、孝治の机の周りにも、おれたちB組のヤローどもが集まっている状態。

 

「ほんま、よう信じられんわ♋ おまえはほんまに孝治なんか?」

 

 級友の沢見光一郎{さわみ こういちろう}が、遠慮もなにも無しで、ぶしつけな質問をやらかした。その右横で沖台和秀{おきだい かずひで}も、ふんふんと聞き耳を立ててやがる。これに孝治も説明の義務を認識しているようで、おれたちにきょうまでの経緯を、それこそ赤裸々{せきらら}気味に話してくれた。おっと言い忘れたが、おれ(和布刈秀正)もこの場にいる。

 

「退院まで、あと三日の日だったんだけど、急にぼくの体が変にフニャフニャしたみたいな気分になって、それからたった三日の間に胸が急にふくらんで……反対にあそこ……が小さくなって、これもたったの三日で消えちゃった……って言うか、ぼくの体内に引っ込んじゃったって言ったらいいのかなぁ☠ それと全然正反対で、胸のほうは、こんなに大きくなっちゃって……☁」

 

「ほんま、けったいな話やなぁ♋♋」

 

 話を聞いている光一郎がスケベにも、孝治の胸元を覗いてやがる。その下心は、今は置く。それにしても確かに孝治の告白どおり、こいつの胸は制服の上から見ても優に、Dカップくらいはありそうだ。なぜおれがバストの大きさについてくわしいのかと突っ込まれれば、それはそれで大いに困るのだけど。理由はあとで。

 

 横道失礼。 孝治の話は続いた。

 

「ぼくもほんとにビックリして、病院のお医者さんに訊いてみたんだけど、先生も首をひねってばっかりだったよ 交通事故の後遺症で性別が変わるなんて話、まったく前例が無い、なんて言ってね♐ ただはっきりした原因はまだつかめないんだけど、事故のショックでホルモンのバランスに、なにか異常が起きたんじゃないかって言うだけでね⚢⚣ これだって人類の長い歴史の中で、頭に衝撃を受けるような事故はたくさんあったはずなのに、今までそれが原因で性転換したことなんて、ただの一度も報告されたことはない、って言って、けっきょく原因は不明のまんま☞ とにかくこの先も調査と精密な検査を続けさせてほしい、って言うだけだったよ☹ おかげでこれからも、ひと月ごとに病院に精密検査に行かないといけない破目になったわけだけどね☹

 

 なにか積もりに積もった思いでもあるのだろうか、孝治は一気にまくし立ててくれた。こいつ――じゃない、彼女(?)なりに胸の中で、きっといろいろな疑問と憤懣が溜まってるんだろうなぁ。

 

 とにかく、きょうと言うこの日から、ヤローばかりであった吹き溜まりの男子校――我が港南工業高校に、一輪の小さな花が咲いたわけだ。

 

 本物ではないけれど。


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