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『剣遊記Y』

第六章 黒崎店長、帰店す。

     (1)

「大丈夫、頭ば強う叩かれたっちゃけど、別に内出血なんかはなぁもしとらんけ☺」

 

 板堰に治癒の魔術をかけた友美が、安堵の表情で一同に告げた。それを聞いて、ほっとひと息吐いた大介は、まるで放心したかのように腰を落とし、砂浜に尻と尾をペタンとつけた。

 

「良かったぁ〜〜☺ 先生にもしもんことがあったら、おれはもうどげんしたら良かったっちゃろっかぁ……☟」

 

 師匠の敗北を目の当たりにしたとはいえ、大介が板堰を敬愛する気持ちには、いささかの変化も起こらなかったようだ。だけど荒生田への恨みつらみのほうは、逆に胸の中で大きく燃え盛っている感じがしていた。

 

「先生のリベンジは、おれがいつか晴らしちゃるけね♨ こしきい(大分弁で『ずる賢い』)荒生田のやつば、いつかちちまわして(大分弁で『ぶん殴る』)やるったい!」

 

 そんな大介に向かって、孝治は背中から声をかけてやった。

 

「今言ったこと、先生が起きてからもう一回言ってみ☞ 絶対しばかれるっち思うけ☻」

 

「…………」

 

 大介はなんの口答えもしなかった。これは恐らく、現役戦士たる孝治たちには理解のできる戦う者としての心構えが、自分にはまだまだだと思い知らされたからであろうか。さらに追い討ちをかけるようにして、千恵利もポツリとささやいた。

 

「守はんがそないなチンケな男やったら、あたし、絶対好きにならへんかった……って思うわ✍ だって、負けたら負けはったで、それでもさばさばしとうお人なんやさかい✄」

 

「そう言うこっちゃね✌ 先生も先輩も、お互い正々堂々と闘ったんやけ、恨みつらみなんか、初めっからここにはなかっちゃよ☺」

 

「……ようわかった♐」

 

 千恵利と孝治から説教をされた格好で、ようやく大介も、師匠敗北の事実を受け入れたようだ。似合いのカウボーイハットをかぶり直し、砂浜で小さくうな垂れた。

 

「それはそうとぉ……なんやけどぉ☁ どっちんしろ、こげん暗ろうなったことやし、今夜はこの島で一泊っちゃね☻ 夜にボートば出すのっち危ないんやけ♋」

 

「そうっちゃねぇ☻」

 

 ここで話の矛先を変えた友美に、孝治も同意でうなずいた。


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