『剣遊記13』 第二章 記憶の底の訪問者。 (8) そんなこんなで執事に廊下を先導され、孝治と美奈子たち一行は、屋敷の奥らしい大きな応接間の扉の前まで案内をされた。
「若戸様、除霊の魔術師が参られました☞☞」
執事がギギィ〜〜と扉を開けば、確かに部屋の中で主人らしい人物が、ひとりで立っていた。
この家の主なのだろうけど、執事と同じ黒の燕尾服を着た、見た目に二十代か三十代前半のような、若い青年であった。さらに彼の足元には、たぶんペットなのだろう。茶色い毛並みをした、小型のミニチュア・ダックスフント型ケルベロス{三つ首魔犬}が、しっぽを左右に振りながら主人にじゃれついていた。
「我が若戸家の当主、若戸俊二郎様でございます☞」
「ようこそ、若戸俊二郎です☀ それと僕といっしょにおるこのケルベロスは、長年の友である『ヨーゼフ』と言いますっちゃ☟」
執事の紹介を受けて、若い青年当主――若戸俊二郎が、右手を差し出して握手を求めてきた。もちろんこの場でのリーダー格である美奈子が、一番に左手を差し出した。
「は、はい……よろしゅうお願い申します☁」
「うわっち?」
このとき孝治は気がついた。ケルベロスなど別に珍しくはないが、それよりも美奈子の若戸を見る瞳が、なんだか驚きの色を表わしている状態に。
孝治は即、左横にいる友美にささやいてみた。
「美奈子さん……なんか目が丸うなっとうっちゃね♐ あれっちなんか、急に昔の知り合いに会{お}うたような感じの目っち思うっちゃけど☚」
孝治に言われるまでもなく、友美もすでに勘付いている感じでいた。
「孝治の言うとおりばい⚖ 美奈子さん、口にも顔にも出しとらんとこは立派なんやけど、あの目だけは絶対に、頭ん中で驚いちょるっちゃよ⚠♐」
孝治と友美、このふたりの指摘を耳に入れたわけでもないだろう。だけれど美奈子自身が、その推測を証明してくれた。
「あなた……確か……昔、京都におったことがありまへんどすか?」 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |