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『剣遊記13』

第二章 記憶の底の訪問者。

     (7)

 玄関では館の執事(だろう、たぶん)が、孝治と美奈子たちを出迎えてくれた。

 

 黒の燕尾服を着こなし、頭髪は薄いが縁の黒いメガネをかけている老紳士であった。

 

「お待ちしておりました♣ 未来亭の皆々様方☀ まずはこのわたくしめが、屋敷内で起こっている怪現象について、御説明をいたします♋」

 

 言葉自体は大変つつましいが、反対にその目は、大きそうな喜びで満ちあふれていた。

 

 また態度も冷静であるのだが、恐らく一刻も早く除霊をしていただきたいポルターガイストに、いつも苦しめられているのだろう。それを示すかのように、目の下には大きなクマができていた。さらにこれが理由かどうかはわからないが、美奈子が訊く前から、今までの被害状況の説明を勝手に始めてくれた。

 

「それはまさに、世にも恐ろしい話でございます♋ この屋敷内において、まるでなにかに取り憑かれたような怪現象が発生しましたのが、きょうより一箇月ほど前からにてございます♋ 夜になりますと、当家の天井や壁などが、正体不明な不気味極まる音を発するようなことが連続して起こっているのでございますよ♋♋」

 

「はぁ、そうなんでおますのかぁ☻」

 

 しかし美奈子は、特に関心を抱くような感じでもなし。気の無さそうな生返事を、執事に向けて戻していた。孝治も出発前に拝見をしたのだが、依頼内容の要望書にも、そのような現状がとっくに書かれてあったし。

 

「それで、除霊を行ないたい部屋は、どの間でおますんかいな♐」

 

 長くなりそうな話に付き合う気もなし。挨拶もそこそこ。美奈子は早速仕事に入るようだ。もともと相手の高貴さや家柄など、孝治の感じる限りでは、あまり興味もないようであるし。

 

「は、はい、こちらでございます✈ 当家の主人も、そこで待っておられますので

 

 執事も一応心得ているようで、すぐに美奈子と孝治たちを、屋敷の中に招き入れてくれた。

 

 それにしても、剛毅な主人と言えそうだ。なにしろ悪霊が取り憑いている現場の部屋の中で、除霊の魔術師を待っていると言うのだから。

 

 孝治も屋敷の中に入るついで、右横で控える涼子に、そっと小声でささやいてやった。

 

「わかっちょうっち思うっちゃけど、涼子はヘタにポルターガイストなんかやらかしたらいけんちゃけね☢ 間違って美奈子さんに除霊されちまうばい☠」

 

 これに涼子が、ほっぺたをプクッとふくらませた。

 

『あたしかてもうなんべんも言われて、もう常識になっとうっちゃよ♨ ここはあくまでも、ただの見学者に徹するつもりっちゃけ


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