『剣遊記13』 第二章 記憶の底の訪問者。 (5) 再び深夜の浴場。美奈子がシャワーを浴びている光景を、こりゃ悪かぁ〜〜と思いつつ、孝治は湯船から眺め続けていた。
こちらに背中を向けているとは言え、見事に均整の取れている、スラッと伸びた裸身であった。
孝治はやっぱり口まで体を湯に沈め、ブクブクと泡を立てながらで考え続けた。
(なんや……今にして思うたら、やっぱ身内が少ないだけの理由で、おれや友美までが同席せないけん理由がわからんちゃねぇ……? 確かに美奈子さん、見栄っ張りなとこかてあるっちゃけど、ほんなこつそれだけが理由なんやろっか?)
「孝治はん!」
「うわっち!」
いきなり美奈子から声をかけられ、孝治は驚きのあまり、湯船からバシャッと立ち上がった。もちろん全身丸出しの状態であるが、自分も丸出ししている美奈子の表情は、一ミリたりとも揺るいではいなかった。
「ほな、うちは先に上がらせてもらいますさかい、あとはどうぞごゆっくり☺」
美奈子はそのままクルリと、白い背中とお尻を孝治に向けた。それから堂々とした姿勢でタオルの一枚も持たず、浴場から脱衣場へと歩いていった。
黒くて長い髪が、背中にペッタリと張り付いている感じであった。
「ふぅ……☻」
孝治はようやく、ほっと安堵の思いに浸った。
「思えば美奈子さんの気まぐれにも、今までずいぶん泣かされたもんちゃねぇ♋ でも今回は、その決定版になりそうな気がするっちゃけど、これは杞憂で済むもんやろっかねぇ☢」
孝治は湯船に肩まで浸かり直したまま、延々と考え続けた。
それからあとは、例のごとく、考え過ぎて見事にのぼせ、朝まで真っ裸のまま、浴場のタイルの上で大の字となっていた顛末は、もう文章に記すのも恥ずかしい――と言えるだろう。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |