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『剣遊記13』

第二章 記憶の底の訪問者。

     (3)

 もはや想定外であった混浴の件は棚の上。孝治は観念しきった気分で、美奈子といっしょに、湯船で肩を並べ合っていた。

 

 さらに性転換の主原因も、棚の棚のもうひとつ棚の上。この場では不問と決め込んだ。孝治自身に、追及意欲がまるで皆無であることだし。

 

 その代わりでもないが、孝治は美奈子に尋ねてみた。きょうの昼、急に店長から執務室に呼ばれた件。美奈子の強い要望による、緊急招集の話を。

 

「で、そんときはなんかきちんと理由ば言わんかったんやけど……なしておれと友美ば、今度のお見合いに同席ばさせるとね?」

 

「それはどすなぁ……☁」

 

 初め美奈子は、言葉を澱{よど}ませ気味だった。しかし意を決したらしい。再び先ほどのように湯船でバシャッと立ち上がり、孝治の前に堂々と、自分の裸身を曝してくれた。二回目で。

 

「うわっち!」

 

 よほど自分のオールヌードに自信があるのだろうか。そんな美奈子が、先に口を開いた。

 

「ところで……なんでおますんやけど、友美はんともうひと方……そうそう、大谷秋恵はん言いましたなぁ☀ その秋恵はんとやらは、ごいっしょしてはらしまへんのかいな?」

 

「そ、それはぁ……☁」

 

 返答は見事に別方向だった。しかし孝治は美奈子の全裸に圧倒され、返す言葉を見失った。

 

 孝治は口まで湯船に沈め、ブクブクと息で泡を立てた。そこに美奈子から別方向の問いを尋ねられたので、なかば慌て気味になって、顔を上に上げた。

 

「と、友美とぉ……そん秋恵ちゃんやったら、おれよか先に、由香たちといっしょに風呂に入ったっちゃね……友美たちやったら、なんの問題もなかとやけ……☁」

 

 やけん、今はおれひとりのつもりやったんばい……そしたら美奈子さんがおってくさぁ――この愚痴は頭の中に留めておいた。

 

 ついでに別の考えも、頭の中を巡っていたりする。

 

(やっぱ美奈子さん……胸ば大きかぁ〜〜♋ おれかて友美と涼子には勝っとうとやけど、おれが百人束になったかて、きっと美奈子さんには敵わんばい♋♋)

 

 孝治もなぜか、自分の胸の大きさに、不自然的な自信を抱いていた。それが美奈子の堂々とした巨乳をまともにすれば、まさに砂上の楼閣であったのだ。

 

 美奈子自身は恐らくまったく気づいていないようだが、胸の大きさで弟子(千秋)と戦士(孝治?)からの羨望を受けている話となる。かなりに妙な話の展開ではあるが。

 

 とにかくこの件(胸)も棚に上げ、孝治は再び口まで湯船に沈みこんだ。それからきょうの昼間の出来事を思い直してみた。突然の緊急で、美奈子の要望により、孝治と友美と秋恵が、店長執務室に呼ばれた話の展開を。

 

 今のところは完全に、美奈子が回答をはぐらかしているのだが。


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