『剣遊記Y』 第四章 金髪魔神あらわる。 (2) 「うわぁーーっはっはっはっはっ☀☆☺☺☺」
そんなところへ豪快に大笑いを振り撒きながら、市の衛兵隊長である大門が参上した。
笑っている理由はわからないけど。
「いやぁーー! これはどうにもお待たせしましたなぁ☀☀ ちょっと公務が混んでしまいましてなぁ☆☆ うわっはっはっは☀☺☆」
「お待ちしておりましたわ♡ 隊長殿♡」
大門を席に招待した当事者も沙織であった。こちらはこちらで初顔合わせであるが、沙織は大里の調査により、大門が板堰に惚れ込んでいる話も、すでに知っていたのだ。
「どうぞ、お座りになられてくださいませ♐」
「いやいや、これはこれはご丁寧に☀」
その沙織の勧めで、大門が板堰の右横に、ドッと腰を下ろした。これで席の配列は、左から沙織、板堰、大門、泰子、大介の順となり、浩子はソファーの背もたれの上で、鳥のように鎮座していた(ハーピーは座るよりも、このほうが楽チン✌)。
「いやあ、二度目のお目見えとなりますが、こうして天下の剣豪殿との同席に加えていただけるなど、大門家の誉れ、まさしくここに極まれりですぞ☀」
「いや、わしはほんま、そげーなほどの男じゃないんじゃが✋」
とにかく、まくし立てまくりの大門。板堰はただ、苦笑を繰り返すのみでいた。
このような調子で、板堰があまり話に乗ってこないので、大門は話を転換するつもりか。沙織のほうに顔を向け直した。
「それで沙織殿でしたかな? 黒崎店長の御親戚にあたられるそうで、お初にお目にかかりますなぁ☀ いやあ、お美しいお嬢さんで☺ 今後とも、どうかよろしく♡ で、きょうのご用件とやらはいったい、なんなのですかな?」
「きょーの用件?」
大門が沙織に向かって尋ねたセリフに、板堰が興味を示した感じで振り向いた。すると沙織は、特に慌てるわけでもなし。淡々とふだんの調子で答えてみせた。
「いえ、別に隠し事があるわけでもないんですのよ♡ ただ、この話は大門隊長も、ぜひ交えて申しておきたいと思いましたものですから✌」
「ほう、わしにも関係できることとは、これはこれで光栄ですなぁ☆」
大門も改めて、沙織の言葉に耳を傾けた。これにて全員の耳目が集まったところで、沙織は咳払いをひとつ。一同を見回して話を始めた。
「おほん、実は……もしよろしければ板堰先生に、ぜひ未来亭の専属になっていただけないかと思いまして、きょうのこの席をご用意させていただいたのですが……☆」
「な、なんですとお! 板堰殿をこの未来亭の専属にい!」
何事にも大袈裟な大門とは対照的。板堰本人は、終始冷静のままでいた。
「専属ですけー……別にそーならんでも、わしゃあ依頼せー請ければ、どんな仕事でもするがのぉ……」
実際、戦士として初めて身を立てて以来、常に一匹狼を貫いてきた板堰である。従って彼には、ギルド{組合}に属して活動を行なう概念はなかった。
味方は求めても仲間を欲しない性分は、生来からの持ち前とも言えるのだ。
板堰はすぐに言葉を返さず、代わりに試すかのような目線を、弟子の大介に向けた。
「どうじゃ? 俺がここの専属でいたほうが、ええがと思うか?」
これに大介が、緊張しきった顔(らしい)で頭を横に振り、固くなっている口調で、しどろもどろに答えた。
「お、お、おれには、そ、それはわかりましぇん! た、ただ、先生が行かれるところには、ど、どこ、どこにでもついて行く覚悟ですっちゃ!」
すると急に、ここで大門が再び大きな声で笑い出した。
「うわっはっはっはっはっ! そこの若者よ☞ なにも案ずることはないぞ☀✌ なにしろ板堰殿が未来亭に所属されるということは、このわしもお薦めしていいことだからなぁ♡」
さらに訊かれてもいないのに、よけいな口まで差しはさむ始末。
「まあ、なんにしろ、全国にその名も高き剣豪板堰殿が同じ市内にご滞在されるともなれば、わし……いや、市の衛兵隊長としても、これ以上の誉れはござりませんからなぁ♡ どうであろう、板堰殿♐ わしからもお願い申す✊ ぜひともご専属願えませんかな?」
「そうじゃのう……☁」
大門の下心と名誉欲はともかくとして、板堰自身は専属になろうとなるまいと、きょうまでの自分の生き方を変えるつもりは、さらさらなかった。
従って、本心はすでに明確。しかしここは一応、考慮の姿勢を見せることによって、最低限の礼儀を尽くしておかなくてはならないだろう。これは無碍に断って、相手のプライドを傷付けないための配慮でもある。ところがそこは、沙織も百戦錬磨。剣豪の気配りを、とっくにお見通しとしていた。
(そりゃ最初っから、前向きな返事なんて期待してないけどね……でも私が未来亭にいる間に、なんとしてでも専属になってもらうんだから♡ ちょっとズルい手段を使ってでもね♥)
黒崎から店長の代行を委任されている沙織にとって、有名人の専属化は、まさに大きな業績結果となる。
未来亭の経営自体は基盤がしっかりとしているので、その点では沙織に手の付けられる所はなかった。だからなおさら、未来亭の有名化のみが、唯一なし得る実績とも言えるのだ。 (C)2012 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |