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『剣遊記Y』

第四章 金髪魔神あらわる。

     (19)

 ふたりの自由商人がいなくなったところで、沙織は泰子と浩子に顔を向け直した。

 

「それじゃあ、あなたたちも部屋に戻って早く寝るのよ♡ あしたの朝は頼んだわね☀」

 

 さらに自分は、これからもうひと仕事とばかり、両腕の裾をめくり上げた。

 

「ほいで沙織はほんこんで、徹夜するんっしょ?」

 

 心配そうな浩子の問いにも、沙織は笑顔で応じる余裕っぷりだった。

 

「もちろんよ✌ 決闘が三日後に迫ってるし、それにわたし、大きな祭りを前にすれば、ひと晩やふた晩の徹夜は平気なんだからぁ♡」

 

「よいでねぇことわがっでんだども、確すかにそのセリフ、否定できねえんだぁ☻」

 

 戦士同士の真剣な対決を『祭り』と言い切る不謹慎はともかく、沙織が仕事絡みの貫徹にはとても強いことを、泰子は前述のとおり熟知していた。

 

 これも黒崎一族の伝統であり、中でも大御所である黒崎健二氏こそ、その血を最も代表する人物なのであろう。ところがその末席に位置する沙織は、一番大事な要件を、今になって思い出していた。彼女もこれで、けっこうそそっかしいようだ。

 

「あっと、忘れてたぁ! 泰子だけ、もうひとつ頼んでいいかしらぁ?」

 

「いいべ☺ もうなんでも、じょさねぇ(秋田弁で『簡単』)ことだがらぁ☆」

 

 部屋から出る寸前であったが、泰子は振り返って微笑んだ。このそそっかしさも、熟知済みのひとつであるのだから。


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