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『剣遊記Y』

第四章 金髪魔神あらわる。

     (18)

「へい、お招きによって参上させてもらいますわ♡

 

 現れたふたりの者は、いずれも男性。ひとりはふつうの人間で、ややくたびれた感じのある、商人風の服装。さらにもうひとりは、上半身は同じ服装ながら、下半身が巨大サソリ{ジャイアント・スコーピオン}の体形を持つアンドロスコーピオン{半蠍人}であった。

 

 このふたりが執務室に入ったところで、早速沙織が説明を始めた。

 

「泰子と浩子にご紹介するわね☞☞ こちらは自由商人である沢見光一郎{さわみ こういちろう}さんと沖台和秀{おきだい かずひで}さん♡ ずっと前に東京の浅草で知り合ってたんだけど、偶然この町で再会したもんだから、今度の仕事を手伝っていただくことになったの✌♪」

 

 すぐに沢見とやらがしゃしゃり出た。

 

「お初にお目にかかりますわ♪ わいの名は沢見言いまんねん♡ でもってこっちゃのシケた顔しとんのが、わいの可愛い弟分で和秀言うんやわ☆ どうかあんじょうよろしゅう頼んまっせ☺☺」

 

「……あ、ど、どうも……こんたによろしくだぁ……♠」

 

「は、はい……よろしくっしょ……♣」

 

 いきなりバリバリの関西弁でまくし立てる沢見に、泰子も浩子もテキメンに引いていた。また泰子の受けた第一印象も、これ以上でも以下でもないシロモノだった。

 

(この人……ベタベタの関西人だぁ……♐)

 

 だけど、引き気味であるふたりの女子大生の態度には、まったく構わない様子。沢見の弁説は続いた。

 

「なんや、沙織はんから聞いた話によったら、もうすぐこの町でごっつうでかい試合があるそうやおまへんか☀ で、こんなときの賭け事の胴元仕切りはるんやったら、わいらにあんじょう任せときや✌ 儲けの分け前は・三やっちゅうことで、話は着いとうさかいに☺♪」

 

「そうよ☻ わたしたちが七で、この方たちが三ってことでね☀」

 

「これはドデ(秋田弁で『びっくり』)しただぁ〜〜♋ 沙織っだら、いつも話が早いんだがらぁ☝」

 

 長い付き合いながら改めて、泰子は沙織の手回しの良さに舌を巻く思いとなった。これは沙織が、黒崎家の親戚筋なのが理由――というわけでもないだろう。とにかく大学の学生自治会会長といい、大学祭実行委員長の腕前といい、その実力には大いに目を見張らせる才能を、常に光らせているのだから。

 

(沙織なら……いつになるがわがんねえだけんどぉ……こい店さぁ継ぐ資格は充分ってもんだがらぁ☻)

 

 これは偽らざる泰子の、沙織に対する絶対的評価である。

 

「それでは、くわしい打ち合わせはあした改めて行ないますので、きょうのところは用意してある部屋で、ゆっくりと休まれてくださいませ♡」

 

「へい、泊まり賃まで無料{ロハ}にしてもろうて、ほんま感謝感謝ですわ☀☆」

 

 沙織から勧められ、ナニワ商人独特のニコニコ顔で沢見が沖台を連れ、執務室から退席した。このときアンドロスコーピオンの弟分は、部屋から出る間際、次のような愚痴をこぼしていた。

 

「おれ……これっぽっちもしゃべることあらへんかったなぁ……☁」


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