『剣遊記Y』 第四章 金髪魔神あらわる。 (17) 未来亭の閉店後。深夜の執務室。黒崎がいつも使っている机の前に、沙織、泰子、浩子の三人が集まっていた。
「あじしたのよぉ? こんな夜中に、おんだら呼ぶなんてさぁ♨」
仕事疲れで早く眠るつもりだった浩子は、やや不機嫌気味。しかし沙織は友達からのブーイングにも構わず、一枚の用紙を泰子と浩子の前に差し出すだけだった。
「ごめんなさいね♥ あんまり時間もなかったし、それにこれだけはあなたたちにしか話せないもんだから♡」
「わたすたちしか話せねえこと? そいはなんだぁ?」
泰子が用紙を右手で受け取り、内容に瞳を通した。そのうしろから、浩子も中身を覗き込んだ。身長差があり過ぎなので、両方の翼を羽ばたかせて宙に浮いてからである。
「ふぅ〜ん、でーてーわかっただぁ♐」
「あたしもおぅよ✐」
泰子と浩子が、そろってうなずいた。沙織が手渡した用紙は、板堰と荒生田の対決を報じる、一種の宣伝紙{チラシ}のような文章だった。それだけならば特に問題はないのだが、宣伝紙には闘いの勝利者を予想する、いわゆる賭けの案内状みたいなモノが、付録として添付のように書かれていた。
「つまりだぁ、今度の決闘さに沙織が胴元さやるつもりだねぇ☞」
「そういうことなの☺ さすがは泰子ね✌」
長い友達付き合いなだけあって、泰子の勘は沙織が感心するほどにドンピシャリ。そうでなければ沙織は初めっから、泰子たちには相談をしないであろう。
それから一応、ふたりが内容を承知してくれたところで、沙織が話を続けた。
「それで、今夜は徹夜で私がその用紙をたくさん刷ることにしてるから、ふたりはあしたの朝、店を開く前にそれを街のあちこちに配ってほしいの✈ 特に未来亭の常連さんにはこっそりとね✇ 名簿もちゃんと用意しておくから✌」
「ちょっと秘密ってわけだわね✍ わがっだ✌」
「ありがと♡ 持つべきものはやっぱり友達ね♡」
泰子がニコッと微笑んだ様子を受けて、沙織はほっと胸を撫で下ろした。
まさか友達からの頼みを断ったりはしないだろうけど、シルフの泰子とハーピーの浩子の力を借りれば、それこそチラシの配布はお手の物であろう。それも内密に行なうには、まさに打ってつけなのだから。
「でもぉ、だけんがだい(千葉弁で『だけれど』)ねぇ〜〜☁」
だが浩子がここで、やや不安げな顔を沙織に向けた。
「胴元だなんてよいなもんじゃねえこと、あたしたちにできるっぺぇ? おいねぇ(千葉弁で『無理』)ことして捕まったら、損だっしょ……☠」
すぐに沙織は、浩子に答えた。
「その点なら大丈夫、本職の方を呼んであるから☀」
「本職ぅ?」
瞳をさらに丸くする浩子に微笑みかけながら、沙織は執務室の隣りに通じている部屋のドアまで寄って、右手でガチャンと開いた。
その部屋には泰子と浩子を呼ぶ前から待たせていた者たちが、ふたりいた。沙織はその者たちを、手招きで呼び寄せた。
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