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『剣遊記Y』

第四章 金髪魔神あらわる。

     (15)

「うわっち!」

 

 おのれ自身の正体は露呈済みとはいえ、孝治は男の性{さが}の抑制に、一生懸命尽くさないといけない気持ちだった。

 

 千恵利はそんな孝治に瞳を向け、またもくすっと微笑みながら、話を一から始めてくれた。

 

 まったく意味のない余談だけれど、涼子はずっと裸のまま。

 

「大昔、地球上に多くの魔神が存在してはったって、あたしかて聞いたことあるんやで✍ でも人間とか亜人間{デミ・ヒューマン}の魔術師が高度化したもんやさかい、だんだんその数を減らしてもうたそうなんやけどなぁ✎」

 

「わたしもおいしゃんやおばしゃんから、聞いたことあるっちゃよ✑ そんころから高位の魔術師が、むしろ魔神や悪魔の力ば利用して、魔力ば高めたって♋ もっとも、本モンの悪魔が数ば減らしたもんやけ高位魔術師もいっしょに没落ばして、わたしたちみたいな一般魔術師が増えたっち☺ 小学校んときの授業でも、そげな歴史ば習ったっちゃね✒」

 

「そうそう、そんとおりや!」

 

 友美の追加説明に、千恵利が大きくうなずいた。どうやら同じ魔術を極めた者同士、ここでも意気投合を果たしたようだ。そのついでか千恵利も、負けず嫌いのつもりみたいに、追加説明を言い始めた。

 

「そやかて、これは知らんやろうねぇ☞ 魔神の歴史が終わる直前、一部の高位魔術師が残されはった魔力でもって人為的に魔神を創造して、自分たちの力を後世に残そうとしたことをやね☛」

 

「へぇ〜〜、それは知らんかったわぁ♋ そげなこともあってたんやねぇ☁ 言うちゃあなんやけど、一種の悪あがきっちゅうもんやなか?」

 

「ま、まあ、それを言うたら、身もフタもあらへんのやけどな☠」

 

 このように、深い関心――というより、きついセリフを言って魔神――千恵利をタジタジさせている友美の右隣りで、孝治は自分自身でやや呑気と自覚している考えを巡らせていた。

 

(この魔神さん、ようしゃべるっちゃねぇ♐ 今までなんか、よっぽど胸に溜まっちょうことでもあったんやろっか?)

 

 だけど魔神を自称する割には、人(孝治)の本心を読めないらしい千恵利は(あるいは読む気がないのだろうか✄)、そのまま解説を続行中。友美の言葉で、別段気を悪くした様子も、まったくないようだ。

 

「そうなんや♐ でも肝心の本モンがおらんようなったら、それらもけっきょく、風前の灯火やったんやろうねぇ☠ そやさかい魔術師は、そうやって創った魔神を剣とか腕輪なんかの道具に変えて、各地にお宝みたいに隠しはったわけなんやわぁ☢ このあたしみたいにやね✌」

 

「すると千恵利さんは、ふだんは人ん姿ばしとらんわけですか?」

 

 ここでようやく、今まで千恵利の姿を見掛けなかった理由の一端を知って、孝治は思わず尋ねてみた。これに千恵利は、可愛い娘ぶって舌をペロリと出しながらで応じてくれた。

 

「あっと、これ以上は、ひ・み・つ、やねん♡ だって守はんから厳重に口止めされとんのやからねぇ♡」

 

「けち♨」

 

「まあ、そんなとこやねんな☆ 悪う思わんといてや♡ ほな、さいならやでぇ♪」

 

 それから孝治たちを煙に巻くような感じで、千恵利が一目散に脱衣場から退室した。


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