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『剣遊記Y』

第四章 金髪魔神あらわる。

     (14)

「ご指摘のとおり、あたしの正体は魔神なんや✌ それも何百年前の昔なんだかよう覚えとらんのやけど、どこかの高位の魔術師が魔造研究の末に創り上げた、人造の魔神らしいで✍」

 

 脱衣場で濡れた体をバスタオルで拭きながら、千恵利が身の上話を語ってくれた。それも、どこか他人事のようなしゃべり方で。だけど世間一般で伝わる印象とはまったく異なる快活な話しっぷりは、孝治、友美、それとこっそり聞いている涼子の三人に、彼女が魔神であるらしい威厳を、まるで感じさせなかった。

 

「昔、魔術師によって創られた魔神……やけん『創造主』なんち言葉が出たっちゃね✐」

 

「そうや☞ それにしても、さすがに友美はんも魔術師やねぇ☺ すぐにあたしを魔神って見抜くんやから☆ やっぱそれって、専門家の勘ってやつかいな?」

 

 自分の正体を見事暴いてくれた友美に、当の魔神が称賛の言葉を贈った。これに友美が頭を横に振り、やや緊張気味の微笑みで返した。

 

「そ、そげなんやなかと! ただ、無から物質ば創りだしたり、破壊されたモンば復元する魔術ば呪文抜きでやってのけたりするなんち、並みの魔術師には簡単にできん、高度な物理的魔術やもんやけ……これはもう、人知ば超えた能力やけねぇ♐」

 

「言われてみれば、そやなぁ★ けっきょく、自分で教えてもうたってことやな☻」

 

 図星を突かれた感じにも関わらず、千恵利の笑顔はさっぱりとしていた――というより、小悪魔的微笑にさらに磨きがかかったようにも、孝治には見えていた。

 

(魔神ってやっぱ……悪魔系の存在やからねぇ……♋)

 

 また涼子も、こっそりと孝治にささやいてきた。ただし相手が魔神と知って、もしかして自分の存在がバレるんじゃないかと思っているようだ。声が自然と、低めになっていた。

 

『あたし、思うっちゃけどぉ……千恵利さんって、なんだか今まで話に聞いてた魔神とは、ずいぶん違うみたいっちゃねぇ✍ これも時代の流れなんやろっか?』

 

 幽霊が自分のことば棚に上げて、人様……やない魔神様のこと言うもんやなか――なんて皮肉に感じつつも、孝治は小声で涼子に応じてやった。

 

「確かに昔の伝承やったら、魔神ってのは悪魔やなんかと双壁をなす魔物{デーモン}の象徴やったんやけどなぁ……でも近ごろじゃあ、とっくに絶滅しちょったっち思いよったっちゃねぇ✍」

 

「ところがどっこい、絶滅なんかしてなかったんやわぁ☆」

 

「うわっち!」

 

 やっぱりとでも言うべきか。孝治の小声はしっかりと、千恵利の小耳に捕えられていた。この件だけをクローズアップしてみても、やはり千恵利は魔神なのであろう。

 

 だけどもう一度やはりで、幽霊の声だけは聞こえていないようだった。

 

「なんやペチャクチャと、あたしの解説あ〜りがとぉさぁ〜〜んやねぇ✌ でもあんたって、独り言の癖でもあるんかいな?」

 

「い、いえ! そげんこつやなかとです!」

 

 孝治は引きつり笑顔を承知のうえで、慌てて頭をブルンブルンと、扇風機のように横に振りまくった。しかもこのとき千恵利は、とっくに着衣を終えていた。その服装は白い薄手のTシャツに、脚線美をもろ出しにした短いジーンズ風のズボンといった、やはり魔神らしくない出で立ちだった。それもTシャツが体型と密着しているので、必要以上に胸のふくらみが、はっきりと浮かび上がっていた。

 

 いわゆる裸でいるよりも、ずっと色っぽく感じてしまう格好なのだ。


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