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『剣遊記Y』

第四章 金髪魔神あらわる。

     (13)

「さあて、あたしの気はこれで晴れたさかい、もう出まひょっか✌☞」

 

「こ、くぉらぁーーっ! ほんなこつこんまんま置いてくとやぁーーっ!」

 

 千恵利は無様な格好の荒生田に、もはやなんの関心も示さなかった。そのままクルリと、まさに踵を返すだけ。そんな千恵利に、友美が恐る恐るの顔付きで問いかけた。

 

「で、出るんはぁ……よかとですけどぉ……うしろの壁、壊したまんまですっちゃよ♋」

 

「あらぁ、忘れとったわぁ☆」

 

 千恵利も友美も、宙ぶらりんでいる荒生田など、とっくに眼中の外だった。それよりも本当に壁の惨状を忘れていたらしい感じの千恵利が、友美から言われたとおり、うしろに振り返った。孝治も改めて見直せば、浴場内は千恵利が飛び蹴りで粉砕した壁の破片が、あちらこちらに散乱していた。

 

「……ほんなこつこれって……女ん子がやったことやろっかねぇ……♋♋」

 

 とにかくこのままでは、とても憩いの場としての使用は不可能な状態――いや、それどころではない有様とも言えた。しかし、当の破壊の張本人である千恵利は、むしろ面倒臭げに今度は左手の指を、やはりパチンと鳴らすだけだった。

 

「しょうがあらへんなぁ☻ でも、ほっとくわけにもいかへんしなぁ☺」

 

 この瞬間、まるで時計の針が逆回りをするかのようだった。浴場の壁がガガガガガガガガガガガッと、自己修復していった。

 

「うわっち!」

 

 まさに破片や瓦礫が、元の個所へと集結。孝治はこの間、まばたきを三回行なった。そんな短い時間で浴場は、元の綺麗な風呂場に戻っていた。ついでに称せば、あしたの朝の清掃が、まったく必要でないくらい。沁みも汚れも、綺麗さっぱり取り除かれていた。

 

「あたしって、こう見えてもピカピカ好きなんやわぁ✌」

 

 千恵利の鼻高々なセリフに、孝治はやや引きつり気味のうなずきで返した。

 

「……納得♋」

 

 友美も違う意味で、言葉を返していた。

 

「今やっと……わかったっちゃけどぉ……千恵利さんって、魔神{ジニー}なんやねぇ……☛☞」


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