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『剣遊記 番外編Y』

第四章 君は薔薇薔薇、ボクはバラバラ……ていう感じ。

     (9)

「そげん長ごうおらぶくらいやったらせめて、自分が着とう背広ば秋恵ちゃんの背中にかけてあげんね♨」

 

 律子は小さな親切心のカケラも見せない徹哉に、少々のイラ立ちを感じていた。だけど言っているセリフにも、一応はうなずいてやった。

 

「ま、まあ……マミーについては、それはそんとおりばいねぇ……☁☹」

 

 仕方がないので、律子は自分の上着を脱いで(こちらはご心配なく。律子は夜の冷え込みと地下の低温に備えて、衣服を多めに着ていたので)、裸でいる後輩の背中に、そっとかけてあげた。それから徹哉に振り向き直した。

 

「とにかく状況がこんなやけ、きょうの盗賊修行は中止ってもんばい⛔ 秋恵ちゃんの特別な力ん理由は帰ってから聞くばってん、今は早よ、こっから離れるべきばいね✈ あいつらとマミーんこつ、もう確信犯でほっとくことにするんやけ⛑」

 

 律子の言うところである『あいつら』とは、無論杭巣派や炉箆裸たちのこと。今ごろ彼らは、地下でマミーに追われ続けているところだろう。

 

 暗い古城の地下迷宮の中で。

 

「これもなんもかも、自業自得ってもんばい✄」

 

 だがこのあとだった。ベテランの女盗賊である律子でさえ、自分の認識がいささか甘いモノであったと、言わざるをえない事態に直面した。

 

「せ、先輩……あ、あれ……☛」

 

 それは裸の上から白い上着を一枚だけまとっている秋恵が、震えている右手で、城の入り口を指差したところから始まった。

 

「あれ? ……う、嘘ぉ……♋」

 

 律子も秋恵の人差し指で示された方向に目をやり、思わず息を飲み込んだ。でも徹哉だけはやっぱり、感情表現をまったく抜き。現実に起こっている事実を、ただ淡々と述べるだけでいた。

 

「ヤア、予測シテイタトオリ、来テシマイマシタナンダナ」

 

 その『予測シテイタトオリ』とは、これであった。

 

「コンナニモ早クまみーガボクタチヲ追ッテ地上ニ出テクルナンテ、コレバカリハコノボクノこんぴゅーたーデモ予測デキナカッタンダナバッテン」


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